COLUMN
2023.04.12

筆跡鑑定をごまかすことはできる?鑑定できる文字や基本的な流れを解説

「筆跡鑑定をごまかすことはできるのだろうか」

「ごまかすことができるくらい、筆跡鑑定は精度の低いものなのだろうか」

筆跡鑑定はDNA鑑定と違って確立された鑑定手法があるわけではないため、このような疑問を抱く方は少なくありません。たしかにDNA鑑定に比べると決定的な証拠となりにくいものの、データが揃えば高い精度で筆者識別が可能であり、偽造や改ざんなどを見抜くことができます。

本記事では警察や裁判所から依頼を受けることもある当社が筆跡鑑定とは何かを説明し、筆跡鑑定でわかることや基本的な流れ、用意すべき書類を解説します。

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遺言書をごまかすことは犯罪になる可能性が高い

遺言書をごまかすことは、犯罪になる可能性が高いです。遺言書をごまかす方法として「遺言状を破棄する場合」と「改変(偽造)する場合」の2パターンを考えてみましょう。

遺言状を破棄する場合、私用文書毀棄罪(刑法259条)に抵触する可能性があります。罰則は5年以下の懲役です。

(私用文書等毀棄)第二百五十九条 権利又は義務に関する他人の文書又は電磁的記録を毀棄した者は、五年以下の懲役に処する。
出典:刑法(明治四十年法律第四十五号)

遺言状を改変(偽造)するパターンでは有印私文書偽造罪(刑法159条1項)が適応される可能性があります。罰則は3ヵ月以上5年以下の懲役です。

(私文書偽造等)第百五十九条 行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は、三月以上五年以下の懲役に処する。
出典:刑法(明治四十年法律第四十五号)

このように、文書を破棄または偽造することは、罪に該当する可能性があります。

筆跡鑑定をごまかすことはできるのか?

基本的に筆跡鑑定をごまかすことは困難です。なぜならば、ごまかしたとしても、高い精度で見破ることが可能です。

筆跡鑑定の精度は100%ではない

まず、筆跡鑑定はDNA鑑定や指紋鑑定と異なり、100%の精度ではありません。DNA鑑定と違って個別のものがないからです。

例えば、DNAは人ひとりひとり異なっています(一卵双生児は除く)。また、全身のどの細胞でも同じDNAがあり、基本的に終生変わることはありません(終生不変)。そのため、DNA鑑定の結果をごまかすことは「不可能」と言えるでしょう。

一方、筆跡とは筆記具や紙、机の状態や姿勢などの「筆記する際の状態」、手の怪我や体調、疲労状況などの「筆者の身体状況」、リラックスした状態や緊張した状況などの「心理状況」によって変動があるためです。

このような点から筆跡を模倣する事、偽造することは不可能ではありません。

データが揃えば高い精度で鑑定できる

筆跡鑑定は100%の精度でないからといって、簡単にごまかすことができるわけではありません。データが揃えば高い精度で偽造や捏造を見破れます。

筆跡鑑定は鑑定したい資料(筆者が不明な資料)に対して、対照資料(対象者本人が記載したことが明らかな資料)を複数用意し、鑑定を行います。

対照資料が5~10点ほどあり、一定の条件を満たせば、精度の高い筆者識別が可能となります。

ここで注意すべきなのが、方法によって精度が異なるという点です。筆跡鑑定には主に3つの方法があります。

  • 伝統的方法:筆跡を約50項目の要素に分け、目視で比較分析を行う
  • 計測的方法:長さ・角度・面積などを数値化し比較観察する
  • 科学的方法:原本に光線を当て,筆圧や書き順を観察・異同の判断を行う

このうち伝統的方法のみの筆跡鑑定はおすすめしません。なぜなら鑑定人の主観によって結果が大きく左右されるからです。実際に、伝統的方法の鑑定結果は裁判で「証拠能力がない」と判断されるケースも少なくありません。

計測的方法や科学的方法は、最新機器や最新の技術を使えば非常に精度が高くなります。極めて高い確率で「本人の筆跡か」「偽造か」を見破ることができるといえるでしょう。

そもそも筆跡鑑定とは?

ここでは「そもそも筆跡鑑定とは何か」を以下3つの視点で説明します。

  • 筆跡鑑定の概要について
  • 筆跡鑑定の歴史とは
  • 筆跡鑑定の目的

筆跡鑑定の概要について

筆跡鑑定は一言でいうと「筆者識別」です。わかりやすく言うと「誰が書いたのかを特定する方法」です。鑑定したい資料に対して、対象者本人が記載したことが明らかな資料を複数用意し、鑑定を行います。すると、その対象者が書いたのか、書いてないのかがわかります。

どのような点に着目確認するかというと、いわゆる「書きぐせ」に注目します。書きぐせとは、文字どおり文章を書くときの癖です。ただ、これは幼少期から長年にわたって培われたものであり、他人が同じように書くのは困難です。

さらに、「ブレ」も検査対象になります。書きぐせがあったとしても、人間は一つの文字を完全に同じように書くことはできません。かならずブレが発生します。ブレは小さい人もいれば、大きい人もいます。ブレも模倣することが困難なため、筆跡鑑定の重要な要素の一つです。

当社では、「書き癖」や「ブレ」を客観的に評価するため、数値解析や多変量解析を用いています。それより客観性の高い筆跡鑑定が可能となります。

筆跡鑑定の歴史とは

筆跡鑑定の有意性を提唱したのは17世紀のイタリア人医師、カミロ・バルディであるといわれています。そこから3世紀の間、筆跡鑑定の研究は進みませんでした。

研究が進み始めたのは19世紀になってからです。イタリア、フランス、ドイツの警察研究者が研究を開始し、ドイツ医学解析法という考え方を編み出しました。筆跡個性とは人の骨格や筋力の運動が主成分となり経験が補足するという考え方で、現代筆跡研究の基礎にもなっています。

日本では明治時代に裁判所で筆跡鑑定が導入されるようになりました。しかし、当時の筆跡鑑定は杜撰であり、正式に研究が進んだのは昭和23年に科学捜査研究所が設置され、文書鑑定係ができてからです。このときから科学的な研究が進み、現在では有効な証拠の1つとして使われるまでになりました。

筆跡鑑定の目的

筆跡鑑定の目的は「筆者を特定する事」です。そのため、筆跡鑑定は次のような場合に用いられます。

  • 筆者不明の文書があり、捜査の過程で、疑わしい人物が出てきた。その人物がその文書を書いたのか鑑定したい
  • 遺言書の筆者が本当に被相続人によって記載されたのか鑑定したい
  • 会社に届いた怪文書。書いた人物を特定したい
  • 保険会社に提出された保険の申込書。これが本当に被保険者が書いたのか鑑定したい

このように、刑事事件、民事事件、内々の確認盲的など様々なケースで筆跡鑑定は行われています。対照者が複数人いる場合、複数回鑑定を行うことも少なくありません。

筆跡鑑定でわかること

筆跡鑑定でわかることは以下の3つです。

  • 筆跡
  • 印刷文
  • 不明文字

筆跡

まず、筆跡鑑定すると筆跡に関して以下の点が高確率で明らかになります。

  • 2つの文書が同一人物によって作成されたものがどうか
  • 筆跡を偽装していないか
  • 使用した筆記用具の種類は何か

例えば、書きぐせがほぼ同じだとしても、筆記用具が違うと偽造や改ざんの可能性があります。筆記用具の種類は、いわゆる伝統的筆跡鑑定法ではわかりません。

当社の場合、高精度な電子顕微鏡を使って筆記用具の種類を鑑定します。

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印刷物

印刷物においても筆跡鑑定は利用できます。印刷物で特定できることは2つです。

  • 同一印刷物かどうかの特定
  • 偽造されているかどうかの判別

まず、印刷したもの同士の筆跡鑑定を行うことで、同一の印刷物であるかを特定できます。次に、偽造されているかどうかの判別も可能です。文書を偽造している場合、偽造した部分の筆跡が本来作成した人と異なります。

場合によっては、文書がコピーされたものである可能性があります。コピーか原本かを調べたい方は当社の筆跡鑑定をご利用ください。

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不明文字

不明な文字や不鮮明な文字も、筆跡鑑定で以下の2点がわかるようになります。

  • 不明瞭な文字や隠された文字を他の文字と比較することで、その文字を特定することができる
  • 改ざんされたと思われる文書に筆跡鑑定をおこなうことで、もともとの文字を特定する

筆跡鑑定の基本的な流れ

ここでは、筆跡鑑定を行う際の基本的な流れを紹介します。基本的な流れは以下のとおりです。

  1. 鑑定筆跡の選定
  2. 目視検査
  3. 特徴点抽出
  4. 統計処理
  5. 鑑定結果

鑑定筆跡の選定

まずは「鑑定したい資料」と「対照資料(対象者本人が記載したことが明確な資料)」を用意しましょう。

ここで重要なのが可能な限り原本に近いものを用意することです。理想は全て原本を用意する事ですが、それが難しい場合、ファーストコピーなど可能な限り原本に近いものを用意しましょう。また、対照資料は、できるだけ鑑定したい資料と記載時期が近いものを複数選定することが重要です。鑑定してほしい資料と参考資料の書いた時期が大きく離れていれば、鑑定の精度が下がってしまいます。

次に、筆記用具が異なる文書を選ばないようにしましょう。筆記用具によって、書きぐせが変化してしまう可能性があります。また、認知症や統合失調症が疑われる場合、病気を発症する前後の文書は利用しないようにしてください。病気によって書きぐせが変わってしまっている可能性があるためです。

鑑定する文字を選べる場合には、できるだけ漢字を選択するのがおすすめです。漢字のほうが画数が多く、癖が出やすいからです。

目視検査

続いて目視検査を行います。

前者は伝統的筆跡鑑定法と呼ばれる方法です。鑑定人が文字の配置や筆圧などから癖や特徴を探し出し、分析します。かつての日本では、この方法が主流でした。しかし、上述したとおり、伝統的筆跡鑑定法は科学的根拠に乏しく鑑定人によって結果が大きく変わってしまうというデメリットがあります。

当社が実践しているのは後者の方法です。デジタルマイクロスコープと呼ばれる高精度CCDの電子顕微鏡を使うことで、肉眼では捉えられない筆跡や成分の違いを確認します。

特徴点抽出

特徴点を抽出します。特徴点は、筆跡において、個人の特徴が出る部位が決まっており、全ての特徴点を抽出し鑑定に用います。

当社では、6万字を超える筆跡のデータから「筆者の書き癖・ブレ」などの特徴が表れる特徴点を特定し、その特徴点を抽出しております。

いい加減な鑑定会社・鑑定人によっては、特徴点の定義があいまいであるため客観性が乏しい鑑定が実施されるケースがあるため、注意が必要です。

統計処理

統計処理の段階では、まず特徴点の数値化・正規化をおこないます。その後、専門のソフトウェアを用いて多変量解析します。人間の主観や肉眼による確認よりもさらに細かく「本人の筆跡かどうか」を分析するわけです。

鑑定結果

統計処理(多変量解析)の結果から鑑定人が最終結果を確認し、鑑定結果を導きます。ここでは、鑑定人が得られ統計結果が正しいのか、外れ値などの影響がないのか、対照資料の一部によって統計処理の結果が影響されていないのかを確認します。

専門性の高い判断が必要であるため、豊富な専門知識と経験が求められます。

筆跡鑑定で用意すべき書類

筆跡鑑定を依頼する際には、書類を揃えなければなりません。必要な書類は主に以下のとおりです。

  • 筆跡鑑定を実施したい資料
  • 対照資料(対象者本人が記載したことが明確な資料):3〜5枚

重要なのは対照資料内に「筆跡鑑定してほしい文字が含まれていること」という点です。例えば、「林」という字を用いて筆跡鑑定してほしい場合、どちらの種類にも「林」が記載されていなければなりません。

筆跡鑑定の使用目的を決めよう

筆跡鑑定の報告の種類は3種類あります。

・検査回答書

・鑑定書

・意見書

裁判所に提出が必要な場合、必ず鑑定書の作成を依頼しましょう。

鑑定書は、鑑定結果と鑑定の経過、鑑定人の略歴などが全て揃っている裁判所への提出を目的とした書類です。

一方、検査回答書は鑑定結果を簡潔に記載した報告書となるため、裁判所提出を目的としていません。

意見書は、裁判の相手側から筆跡鑑定書が提出され、その内容について反論する場合に使用します。

基本的な依頼の流れとしては、検査回答書で鑑定結果を確認し、自分の意向にあった鑑定結果であれば、鑑定書作成を依頼する流れになります。

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筆跡鑑定なら法科学鑑定研究所

筆跡鑑定は鑑定機関によって信憑性が異なります。古いやり方で筆跡鑑定をおこなっている鑑定機関を選んでしまうと、偽造や改ざんに気付かない可能性があるでしょう。また、「本人が書いたものだ」と認められず遺言書が無効になることもあります。

さらに、裁判では双方が筆跡鑑定の結果を出し合う、というケースも珍しくありません。この場合、「どれだけ筆跡鑑定の信憑性が高いか」が焦点となります。つまり、「どのような方法で鑑定したか」「どのような機関が鑑定したか」などが重要視されます。

精度の高い筆跡鑑定を希望するなら、法科学鑑定研究所の筆跡鑑定をご利用ください。当社は裁判所、官庁、警察庁などから依頼を受ける筆跡鑑定機関です。

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