乱用薬物の実態〜密造から化学式まで~

乱用薬物の実態④〜密造から化学式まで~

乱用薬物の実態・・よくある質問・・・

乱用薬物(覚せい剤)とはなんですか?
日本では、通常「覚せい剤取締法」で規制されているアンフェタミン、メタンフェタミン及びその塩類を指し、覚せい剤と呼称します。
アンフェタミン、メタンフェタミンは、下図のように窒素原子にメチル基(CH3–)が結合しているか否かの相違のみで、薬理作用などが非常に類似しています。
 この2種類の覚せい剤のうち、日本ではメタンフェタミンが多く乱用されており、欧米ではアンフェタミンが主流でしたが、最近では“アイス”と呼ばれるメタンフェタミンが主流の覚せい剤が多く報告されています。
 国内では、主として結晶や粉末状態で乱用されていますが、東南アジア諸国では、ヤーバーと呼ばれる錠剤型の覚せい剤の乱用が社会問題となっています。
 この錠剤型薬物は、通常オレンジ色に着色されていますが、緑色、黄色、茶色に着色されているものもあります。 サイズは、直径6mm×厚3mm、1錠約90mgで錠剤の表面に〈WY〉〈R〉〈SY〉などの文字が刻印されています。 1錠の約20〜30%がメタンフェタミン、60〜70%はカフェイン、残りは澱粉などの添加物です。香りは、甘い匂いがします。
乱用薬物(覚せい剤)は、どのような効果作用をしますか?
中枢神経系に興奮作用をもたらします。
 少量では、眠気や疲労感がとれ、頭が冴えたような錯覚を覚えます。また、気分が高まり陽気になります。
 しかし、食欲を減退させ血圧の上昇、心拍数の増加を惹起させます。また、単純作業の能率や瞬発力を必要とする運動能力は高まりますが、集中力や能率、耐久力を必要する運動能力は低下します。
 ただし、このような作用も数時間で切れ、その後は脱力感、疲労感、倦怠感に襲われます。
 より多くの効果を求めて多く摂取すると、幻覚が現われたり心不全に陥ります。
 さらに、最初の良い気分を求めて再び使用したいという欲求に勝てず、慢性に乱用すると幻覚、妄想などの中毒症状が現れます。
 覚せい剤の依存作用は非常に強く、やめたくてもやめられないのは、このためです。
乱用薬物(覚せい剤)の致死量・中毒量は?
致死量や中毒量は個人差が存在します。
 致死量や中毒量に関しては、環境、耐性など条件により個人差があり、一 概には言えないのが現状です。
 しかしながら、メタンフェタミンの致死量においては、約1gという値が用いられています。
 ただし、体温が高くなる環境では、例えば激しい運動をした場合や入浴時などでは、毒性が10倍を超え、少量でも急死する場合もあります。
 大阪府病院薬剤師会編:医薬品要覧(薬業時報社)には、中毒症状を発現する血中濃度を以下のように分類しています。
血中濃度 症 状 概 要
 約30〜40μg/ml  致死量  死亡
 約5〜7μg/ml  重 症  中毒死もありうる
 約1,5μg/ml  高 度  異常興奮、高度錯乱
 約0,8μg/ml  中等度  興奮、幻覚、奇妙な行動
 約0,15μg/ml  軽 度  いわゆる常習者レベル
 0,15μg/ml 以下  無症状  治療レベル
フラッシュバックとは?
何かの誘因で中毒時と同様の病的な精神症状を引き起こすことを言います。
 過去に薬物中毒になり、幻覚、妄想状態を体験した人が薬物使用を中断し、一見して元のような無症状の状態をある一定期間経過しても、何かの誘因で中毒時と同様の病的な精神症状を引き起こすことを言います。
 1回、2回と回数、量とも少ないにもかかわらず、以前の中毒時と同じ症状が再発することがあります。
 再発は、薬物を使用していなくても、飲酒や他の薬物、または強い精神的ストレスや、疲労が原因となることも知られています。
 薬物中毒に限らずPTSDなどでも生じることがあります。
尿検査に必要な量とは?
尿の量よりも薬物の絶対量が十分にあるか否かが大事です。
 尿、汗、唾液、精液、毛髪などから覚せい剤の検査が可能です。
 ただし、採取可能な資料の量や資料中の濃度、検出可能な期間を考慮すると、尿が最適と考えられています。
 いくつかの実験によると、メタンフェタミン摂取後24時間尿中に摂取されたもののうち20%くらいが、未変化体(メタンフェタミン)として排泄されていると報告されています。
 また、検査・鑑定に必要な量ですが、検査上は、尿の量よりも薬物の絶対量が十分にあるか否かが大事です。
 いわゆる濃度です。濃度が高ければ5mlでも可能です。通常の目安は、50〜100mlとされています。
尿からの鑑定はどのように行われますか?
予備検査を行い、その後、科学捜査研究所へ送られ検査します
 通常、採尿後は、警察署などにおいて予備検査(スクーリング検査)を行い、その後、科学捜査研究所(科捜研)へ資料が送付されます。
 尿中薬物の予備検査方法としては、シモン試薬((陽性の場合、青藍色に呈色)を利用した吸着チップ法、トライエージ(陽性の場合、所定の場所に赤紫色のラインが入る)などが、用いられます。
 ただし予備検査には限界もあるので、科捜研で本鑑定を行います。
 科捜研では、薄層クロマトグラフィー(TCL)、ガスクロマトグラフィー(GC)による検査が行われ薬物が含有されているか否かを分析し、次に含有されている場合には、  赤外吸収スペクトル(IR)、ガスクロマトグラフィー/質量分析(GC/MS)を行って、確実な確認が行われます。
 裁判においての証拠資料としては、検査原理の異なる複数の分析を実施し判断します。
 TCL、GCとIRまたはGC/MSの少なくとも3種類の検査鑑定を持って最終結論としています。
 尿中排泄期間は、薬物摂取後30分程度から初めて使用した場合は4日程度、乱用者の場合は7〜10日程度が鑑定可能な排泄期間と言われています。
 薬物の代謝、排泄は、摂取量、摂取方法、使用歴、年齢、性別などの影響、環境により個人差があり、さらに検査方法、検査に用いる尿量によっても左右されることがあります。
尿に後から覚せい剤を入混ぜた場合、反応はどうなるのですか?
代謝され排泄されたものと区別しています。
 尿中薬物鑑定では、メインとして尿中排泄量の最も多いメタンフェタミンの検出を行なっています。
 被疑者が、「検査時に尿に覚せい剤を混ぜられた」と抗弁する場合がありますが、科捜研ではメタンフェタミンの代謝物の一つであるアンフェタミンやその他の代謝物を同時に分析し、  それらが検出された場合のみ、陽性と判定します。
 このアンフェタミンが尿中に存在することが明白な場合、メタンフェタミンが代謝され排泄されたものと証明できるのです。
薬物乱用者の尿を飲んだら、尿鑑定で陽性が出るのですか?
検出されることはありません。
 尿鑑定で薬物を検出するためには、尿中濃度は3〜10μg/mlですので、200〜700mlの尿を飲まなければ、陽性反応にはなりません。
 通常考えられる量は、多くても10ml程度ですから、検出されることはありません。
 精液、唾液、膣液に関しては、非常に微量で少なくとも2mgの薬物を摂取したことを示すので、少なくと20L飲まなくてはいけなくなり、非現実的です。
市販の風邪クスリなどを服用して、覚せい剤反応が出ることがあるのですか?
薬物を含有するものはありません。
 現在国内で販売されている医薬品で、薬物を含有するものはありません。
 ただし、“麻黄”(葛根湯の成分)のみ、スクーリング検査で陽性を示す可能性があるが、GC/MSなどの機器分析で明確に区別できます。
 また例外で唯一医療用のメタンフェタミン塩酸塩として、大日本製薬から“ヒロポン”という商品名で、粉末、1mg錠剤、3mg注射液が販売されていますが、  これを購入するには、薬物研究者か施用期間だけとなり専用の免許が必要です。
毛髪からの薬物鑑定とは?
薬物使用時期が推定できます。
 ヒ素、水銀、鉛、カドミウムなどの重金属中毒の場合に、重金属が毛髪か ら検出されることは、比較的古くから報告されていて、毛髪も排泄期間の一つであるという認識があります。
 最近の技術の発達により、微量の薬物分析が可能となりました。
 1980年代後半から、覚せい剤をはじめとして、ヘロイン/モルヒネ、コカイン、フェンシクリジン(PCP)、THCなど多数の薬物について毛髪を資料とした分析が可能となってきました。
 薬物が毛髪中に取り込まれる主なメカニズムは、毛球に入り込んでいる毛細血管から薬物が毛母細胞中に移り、毛髪の成長とともに移動していくと考えられています。
 毛髪鑑定に必要な毛髪量は、約50本以上です。
 GC/MSの特殊な分析法の一つ、選択イオン検出法(SIM、Selected ion monitoring)の高感度分析法(1pg=1兆分の1g程度でも分析可能)を用いれば、髪の毛1本からでも薬物の検出が可能な場合もあります。
 しかし、裁判において薬物の証拠資料として断定に至るには、複数の分析が必要であり、検査には約10mg(約50本)以上の毛髪資料が必要です。
 毛髪からの鑑定の利点は、尿検査からは直近の使用歴が判定できるのに対して、1ヶ月に約1㎝伸びる毛髪からはおよその使用時期が特定できます。
 これは血液中に薬物が存在した時期、つまり薬物使用時期が推定できます。

□出典・参考資料

■新裁判化学/裁判化学:南山堂、■薬毒物化学試験法:南山堂、■法科学技術学会誌:法科学技術学会、 ■乱用薬物密造の科学:データハウス・薬師寺美津秀 著、■覚せい剤Q&A:東京法令出版・井上堯子/他 著、 ■これが麻薬だ:立風書房・剣持加津夫 著、■薬物乱用・中毒百科:丸善出版・内藤裕史 著