指紋検出-ニンヒドリン法

【化学反応を応用する指紋検出】

ニンヒドリンの研究は、約100年前に遡ります
1913年、イギリス「ルーエマン」と、ドイツ「アブデルハルデン」の研究報告に
「ニンヒドリンがヒトのアミノ酸と化学反応を起こし赤紫の化合物をつくる」と、あります

指紋検出ニンヒドリン法

その後、さまざまな研究者が多方面での研究を重ねられました

1954年、スウェーデンの科学者「S・オーデン博士」が、ニンヒドリンは潜在指紋の検出に
有効だと推奨したことが、きっかけとなり警察研究者が本格的な研究を開始しました

ルーエマン・パープル(Ruhemann's purple)

ニンヒドリンは多くの捜査に潜在指紋の検出試薬として
長い間、利用され続けています

ヒトの体は、水分-蛋白質-核酸-脂質などが基となり作られています
蛋白質とは、アミノ酸が連結したものです
このアミノ酸はヒトの汗の塩素成分と同じように、指紋の成分中にも含まれています

ニンヒドリンは、このアミノ酸に化学反応します
そして、熱を加えることで赤紫に変化し指紋が浮かび上がるのです

この紫色、ニンヒドリンを最初に報告したイギリス「ルーエマン」さん、なので
加熱して赤紫になることを「ルーエマン・パープル」と呼ぶのです。

では、どんな物なら、ルーエマン・パープルの指紋検出ができるのか?

ニンヒドリンの本体は固形物・・・つまり粉末です
これを水溶性の溶剤に溶解し指紋検出試薬を作ります

出来上がった指紋検出試薬は水溶性ですから
車のボディやガラスには使用できません
(指紋が流れて消えてしましますよね)

ニンヒドリン溶液は、多孔性の形状を示すもの、紙や木材などの表面に
付着した潜在指紋の検出に優れているとされています

弊所では、ニンヒドリン法による指紋検出は、比較的安易に実施できるので
理科学実験教室や科学サマーキャンプなどで、お見せしています

次世代の試薬達

ニンヒドリン法は、伝統的に捜査で使用されてきましたが
指紋検出の精度の問題や、指紋検出物背景の影響
書かれた文字への妨害や損傷など、多くの問題を抱えています

弊所に持ち込まれる再検出相談のナンバーワンも
ニンヒドリンを使用し、識別可能指紋無しと書かれた鑑定書です

そのため、ニンヒドリンに代わる指紋検出試薬の開発が進められてきました

指紋検出試薬の開発

ニンヒドリンに代わり、アミノ酸を検出し着色して識別する方法として
オルトフタルアルデヒドやジメチルアミノシンナムアルデヒドなど
を利用する方法が開発されました

これらの物質は、潜在指紋中のアミノ酸と反応し蛍光物質を生成します
これらの蛍光をレーザー光を応用し潜在指紋を鮮明に捉えることが可能となりました

弊所では、ニンヒドリンに代わり、DFOという指紋検出試薬を多用しています

DFOという指紋検出試薬

DFOは、ニンヒドリンと同じくアミノ酸と反応し、蛍光性の赤色産物を生成します
その検出感度はニンヒドリンに比べて2倍~3倍優れています

これらを、科学捜査用カメラを利用し、蛍光波長をコントロールし
潜在指紋の検出を実施しています

進化するニンヒドリン

例年2月に行われる「AAFS Meeting」
その帰り古巣NYで友人たちと再会、その席で開口一番、質問責めにあった件が

「ニンヒドリンを2次処理し鮮明化する方法」
(警視庁鑑識課/警察庁犯罪鑑識官/兵庫県鑑識課/兵庫県科捜研による論文)

アメリカでは思いのほか日本人法科学者で有名な方が多くいます
指紋に関する新試薬、新処理法などの論文において「Hyogo」と「Hibi・・」←ブランドです
ブランドですから、みんな興味があります。ですから回し読みされています。
日本の学会の・・の・・の・・じゃなくて「Hyogo」と言えば「指紋関係資料」と相手に伝わります

きっかけは2009年にアメリカ警察市場に現れた「スーパー・ニンヒドリン」←通称
一般のニンヒドリンに比べ1.5~2倍の高検出性能が得られます

スーパー・ニンヒドリン

検体へのダメージも減少させられます

ニンヒドリンを使用して採取した指紋は、時間の経過とともに薄くなり、やがて消滅します

つまり検証する際には、不鮮明指紋となり、
本当にそこにあった指紋なのか否かが問題になることもあります。

その弱点を補う「ニンヒドリン・フィックス」と呼ばれる検出された指紋を
固定化する試薬も現れました。

ニンヒドリン・フィックス

ニンヒドリン関連試薬は増え続けています

ニンヒドリンは指紋検出力が低く、資料に与えるダメージも大きな問題です。

ニンヒドリン処理された資料は、その後の2次検査が困難となります

例えば、プリンター特定の拍車痕跡や紙質・インクの成分分析、
筆跡鑑定やドット文字解析も困難になります
さらに紙幣や証券などの場合、背景と反応色が類似するため誤判定に繋がります
そのため「ダメ試薬」の烙印が押された旧式試薬と考えられるようになりました

それでも多用され続けられています。
その理由は
「早い」「安い」「簡単」
(どっかの宣伝文句みたいです)

資料が大量にある場合、価格は重要です。
弊所のような民間は高性能 / 高感度重視の高価な試薬もバンバン使えます。
しかし、官は、そうゆう訳には、いきません。

ですから、ニンヒドリンで何とかならないのか・・と研究されているのです

「ニンヒドリンを2次処理し鮮明化する方法」
この方法は、ニンヒドリン検出後、金属系試薬「三塩化インジウム」を利用して
潜在指紋を2次加工処理し、ALSを応用、励起光で発光させ採取されます
この手法は極めて有効で、通常ニンヒドリンよりも高感度に検出可能です

2次的に処理する科学技術は以前にも発表されていました
しかし、いま一つ精度・感度が上がりませんでした。

ですが、これは違います。明らかに高精度・高感度なのです。

この論文は私の知る限り、本当に多くの法科学者に影響を与えています。
NYにある法科学研究所に勤める日系アメリカ人のTana○○先生
その部署ではコールドケースや刑事事件の再鑑定なども抱えています。
・・あの事件や、この間の刑事資料、この方法なら・・。
クシャクシャになった論文コピーを見ながら
・・目の色・・変わっていました・・

今の時代、高いお金を払えば、高性能な試薬や機材は、それなりに手に入ります

でも、日本の科学捜査研究者は違います。
お金はあまり使わず、ひと手間、ふた手間掛けて、もっと良いもの創り出してしまいます
それも王道(基本試薬)の「ニンヒドリン」で

ほんとうに、凄いですよねぇ

現在の指紋検出は、今ままでなら不鮮明指紋とされた遺留指紋を
いかにして、対照可能な有効指紋として採取できるかが研究されています

指紋鑑定に関するお問い合わせ