ドイツでは父子DNA鑑定が禁止されている?エビデンスをもとに説明
「妻の不倫が発覚してDNA鑑定をしようとしたけれど、妻からドイツでは父子のDNA鑑定は法律で禁止されているとして拒まれた」
日本でも子どもとの血縁関係を調べるためにDNA鑑定を利用しようとして、このように配偶者から拒否されてしまうことは少なくありません。
ただ、ドイツで父子のDNA鑑定が禁止されているという情報は本当なのでしょうか。本記事ではドイツでの父子のDNA鑑定が禁止されているか否かエビデンスを交えて解説します。
ドイツは父子のDNA鑑定が禁止?ネットの勘違い
インターネット上では「ドイツには父子のDNA鑑定禁止法がある」という噂が見られます。ここではよくある勘違いを3つ紹介します。
- ドイツでは父子DNA鑑定禁止法が制定された
- ドイツは70%の女性が浮気をする
- ドイツでは自分の子でなくても育てなければならない
ドイツでは父子DNA鑑定禁止法が制定された
「ドイツで父子DNA鑑定禁止法が制定された」という噂は2005年頃に流れました。これは当時の法務大臣による「夫が配偶者の同意を得ないで父子のDNA鑑定を依頼することは法律で禁止すべきである」という発言が発端です。
この発言が歪曲され、「ドイツでは夫(男性)が父子のDNA鑑定を依頼することができなくなった」と誤解されるようになりました。インターネットでは歪曲された情報だけが拡散され、「ドイツは妻が浮気をして子どもを作っても、男性はDNA鑑定できないからどうしようもない」といった噂が広まるようになったと推測されます。
ドイツは70%の女性が浮気をする
次に、「ドイツは70%の女性が浮気をする」といった噂があります。これは国別の浮気率を調べた数字が根拠にあるようです。例えば、イギリスのラブグッズ販売会社であるDulex社の「セクシャル ウェルビーイング サーベイ」によると、「ドイツ人の45%に浮気の経験がある」とわかっています。
ただし、浮気の基準は人や国によって異なります。日本人の考える「浮気」とドイツ人の考える「浮気」は一致しない可能性も否定できません。日本人の感覚でこの数字を見て、「ドイツ人の女性は浮気しやすい」という印象を抱くのは浅はかといえるでしょう。
ドイツでは自分の子でなくても育てなければならない
「ドイツ人の女性は浮気しやすい」
「一方で、ドイツには父子DNA鑑定禁止法がある」
このような情報を鵜呑みにして、「ドイツでは自分の子でなくても育てなければならない」と考える方もいます。
ただし、今まで説明してきたとおり、このような情報はすべて噂に過ぎません。次でエビデンスをもとに噂の真偽について検証します。
ドイツの父子DNA鑑定禁止法に関する正確な情報
ドイツ国内におけるDNA鑑定禁止法の正確な情報は以下のとおりです。
- 承諾のないDNA鑑定は証拠品にならないことを示したもの
- 2008年には「DNA鑑定を求めることができる」と法改正した
承諾のないDNA鑑定は証拠品にならないことを示したもの
かつてドイツでは、夫が妻や子どもの意思確認をすることなくDNA鑑定ができました。このことが問題視され、連邦通常裁判所は「承諾のないDNA鑑定は証拠品として認められない」という判決を下しました。
これに対して連邦通常裁判所は、2005 年 1 月 12 日の 2 つの判決で、当該の子又はその法定代理人の認識及び承諾のないまま行われた DNA 鑑定は、子の有する情報の自己決定権(一般的人格権の内容として基本法第 2 条第 1 項、第 1 条第1項で保障される)を侵害するものであり、その結果を嫡出否認の裁判手続において証拠として用いることはできないとの判断を下した。 出典:国立国会図書館調査及び立法考査局|【ドイツ】 父子関係確認の新たな手続―民法改正 |
つまり、ドイツの父子DNA鑑定禁止法とは「父子のDNA鑑定ができないもの」ではなく「承諾を得ずにおこなったDNA鑑定は裁判において証拠品と扱われないもの」が正しい情報です。
2008年には「DNA鑑定を求めることができる」と法改正した
それどころか、2008年には「DNA鑑定を求めることができる」と法改正されています。
法律上の父、子及び母の三者は、それぞれ他の二者に対して、嫡出否認の手続とは別個に、遺伝子上の血縁関係の調査を行うことを承諾し、当該調査にとってふさわしい遺伝子上の検体の採取を受忍することを求めることができる。承諾が拒否された場合には、家庭裁判所は承諾に代わる裁判を行い、検体採取の受忍を命ずることができる。 出典:国立国会図書館調査及び立法考査局|【ドイツ】 父子関係確認の新たな手続―民法改正 |
結論をいうと、ドイツに「父子DNA鑑定禁止法」という法律はありません。むしろ、2008年には「父も母も子も、他の二者に対してDNA鑑定できる」と法整備されたのです。
ドイツも日本も父子DNA鑑定を禁止していない
日本においても、父子DNA鑑定を利用することは禁止されていません。近年では、DNA鑑定は裁判において「最も重要な証拠品の一つ」として利用されています。
DNA鑑定は裁判において最も重要な証拠品の一つ
DNA鑑定が裁判において最も重要な証拠品の一つとされている理由は、精度がほぼ100%だからです。口腔内細胞を使ったDNA鑑定は特に精度が高いうえに、綿棒で頬の内側を10秒こするだけで採取できます。
相手の承諾なしにこっそりやることは禁止
ただし、DNA鑑定は相手の承諾が必要不可欠であり、承諾を得ずにおこなうことは禁止されています。
当社のインフォームド・コンセントでも、承諾のないDNA検査は認めていません。
本検査の申込みには、申込者と被検者全員の同意が必要です。被検者に18歳未満の方が含まれる場合は、その親権者の同意が必要です。また、本検査の対象となる検査サンプルが不正な手段で入手された場合は、検査を行うことは出来ません。 |
かならず同意を得てDNA鑑定をおこないましょう。
DNA鑑定を拒んでも親子関係を認められる可能性がある
仮にDNA鑑定を拒まれたとしても、親子関係を認めることができる可能性もあります。例えば、状況証拠を集めて裁判所に「不貞行為があった」と判断してもらえれば、DNA鑑定を拒まれても親子関係を法的に認めてもらえます。
状況証拠となるものは主に以下のとおりです。
- 妊娠や出産前後に交わしたSNSやDMなどのメッセージ
- 血液型に矛盾がないことの証明
- 妊娠時期に父親と思われる男性との性交渉の事実
- その男性以外と性交渉がない事実
また、DNA鑑定を拒むこと自体が裁判官に良くない心象を与えるでしょう。
ドイツではなく父子DNA鑑定を禁止している国は?
ドイツは父子DNA鑑定を禁止しているわけではありません。むしろ、DNA鑑定を法的に認めています。
一方、フランスではDNA鑑定そのものを認めていません。DNA鑑定を利用する基準が厳しく、生命倫理法によって規制されています。
この法律は以下のケースに当てはまらない限り、DNA鑑定を原則禁止するというものです。
- 医療・科学研究のために使う
- 死亡した軍人の身元を把握する必要がある
- 刑事・民事の司法手続きで求められる
DNA鑑定を利用した父子の血縁関係の確認については、裁判官の命令があれば特別におこなうことができるとされています。万が一、生命倫理法に違反してDNA鑑定をすると、最高拘禁1年または罰金1,500ユーロが科せられることになります。