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 更新日:2026.01.16
投稿日:2026.01.16

【薬物検査】「ベネズエラを叩く」ことが、なぜ“アジアの薬物リスク”を跳ね上げ得るのか

目次

「ベネズエラを叩く」ことが、なぜ“アジアの薬物リスク”を跳ね上げ得るのか

──「アメリカに入らない薬物」が“アジアに押し出される”局面と、当社の薬物検査が“必須”になる理由ー

文:山崎 昭(法科学鑑定研究所) / 作成日:2026年1月10日

※イメージ画像(AI生成画像)

※本稿は、違法薬物の拡散を助長する意図は一切なく、企業・団体の安全衛生、事故防止、
コンプライアンス確保を目的として、公開情報と提供された本文抜粋をもとにリスクを整理したものです。

要旨

現代ビジネス(講談社)に掲載された朝香 豊氏の記事本文抜粋は、「米国の麻薬問題の中心はコカインよりフェンタニルである」という直感的理解を踏まえつつも、米国がベネズエラを先に叩く行動が“見せしめ(恐怖の心理効果)”として機能し、結果的に米国への流入を鈍化させ得る、という見立てを提示しています。

しかし、米国への流入が鈍化したからといって、薬物が世界から消えるわけではありません。地下経済は「行き先」を変えるだけです。供給圧が高い局面では、売りにくくなった分が、日本・韓国・東南アジアへ“押し出される”シナリオは否定できません。

本稿は、その構図を企業の現場リスク(事故・信用・法務)に翻訳し、「当社の薬物検査が“必須”になる局面」を、導入設計・運用・説明責任まで含めて具体化します。

ポイント(結論)

● 抑止が効くほど、在庫と供給圧は“別市場”へ逃げる。米国の締め付けは、アジアへの流入圧を高め得る。

● 日本はすでに「国境の数字」が危険水域。流通圧が上がれば、職場での遭遇確率が上がる。

● 薬物検査は「疑うため」ではなく「連鎖(事故・信用・法務)を止めるインフラ」。検査単体ではなく、運用と説明責任の設計が勝負。

0. 前提:朝香 豊氏の本文抜粋が示す「直感に反する現実」

抜粋では、米国の薬物問題において、コカインよりフェンタニルの方が深刻に見える点が整理されています。CDC(アメリカ疾病予防管理センター)/NCHS(国立健康統計センター)の公表(暫定・予測値)では、2024年の薬物過量死のうち、合成オピオイド(主にフェンタニル)関連が48,422人、コカイン関連が22,174人とされています。数字だけ見れば「フェンタニル対策がより重要」という直感は成立します。

それでも朝香氏は、(麻薬対策が本当の目的ではないという見方を認めつつ)「麻薬対策の観点だけから見ても、ベネズエラを真っ先に叩いたのは最も的確」と述べます。産地・中継地の論理だけでなく、「やれる」ことを見せつけることで、中国・メキシコ・コロンビアに恐怖心が生まれ、米国への流入が鈍化し得る——という心理効果(見せしめ効果)を重視する立場です。

この「恐怖による抑止」が米国で成立すればするほど、次に生じるのは「余剰の再配分」です。ここから先が、アジア側にとっての本当のリスクになります。

1. 抑止が効くほど起きる「市場の移動」─米国に入らない薬物はどこへ行くか

地下経済としての薬物は、政治的メッセージや取り締まり強化で消滅しません。採算とリスクの最適化に従い、ルートと売り場を変えるだけです。

特に供給が膨張する局面では、米国向けの流通が詰まった瞬間、在庫と供給圧は別市場へ流れます。UNODCは、コカイン市場が記録を更新する中で、組織犯罪が状況に適応し続け、世界の薬物問題が社会・経済・安全保障コストを増幅させていると警告しています。

アジアが狙われやすい条件

● 港湾・航空を含む国際物流の規模が大きい(荷量が多く、混入・偽装・分散が起きやすい)

● 人流(観光・出張・留学・スポーツ遠征等)の回復で、小口の持ち込み・人手の確保が容易になる

● 購買力があり、末端価格が高く取れる(採算が合う)

● 「うちは大丈夫」という油断が残りやすく、対策が制度化されていない組織が多い

2. 日本はすでに「国境の数字」が危険水域に──備えが遅れるほど高くつく

財務省(税関)による公表では、2024年の不正薬物全体の摘発件数は1,020件(前年比24%増)、押収量は約2,579kg(同6%減)で、押収量が2年連続で2トンを超え「極めて深刻な状況」とされています。

ここで企業や団体にとって本質的に怖いのは、統計の大小そのものではなく、「流通圧が上がるほど、現場での遭遇確率が上がる」という点です。薬物は“繁華街の問題”として燃え上がるものではなく、事故・不祥事・疑惑として職場や団体の中で噴き出すものなのです。

特に影響が大きい業種・現場

● 運輸・物流:1回の判断ミスが死亡事故・大規模賠償につながる

● 建設・製造:ヒヤリハットが死亡事故になる(重機、高所、危険物、精密工程)

● 医療・介護・警備:安全と信用が根本から揺らぐ(利用者・患者への影響が直撃)

● スポーツ団体(競技団体・プロチーム・実業団・大学部活など):他業種よりも「1件の薬物(ドーピング)疑義が組織全体を直撃」しやすい業態です。スポンサー・放映・興行の損失

● 研究開発・機密取扱:情報漏えい・不正の二次被害が大きい

● 接客・夜間業態:持ち込み・周辺曝露の確率が上がる

3. 東南アジアの供給過多は“第二の波”──安く、広く、速くなる

アジア側のリスクを押し上げるもう一つの要因が、東南アジアにおける合成薬物(特にメタンフェタミン)の供給過多です。UNODCは、ゴールデントライアングル由来(かつて世界最大のケシの栽培と麻薬密売地帯であったミャンマー・ラオス・タイ国境地帯)を中心に合成薬物の製造・密輸が拡大し、東・東南アジアで2024年にメタンフェタミン押収が236トン(前年比24%増)に達したと発表しています。

供給が過多になれば価格は下がり、流通は太くなる。太くなった流通は、いずれ国境を越え、“普通の生活圏”へ侵入します。企業にとっては「誰かが逮捕された」より先に、単なる私生活の乱れに留まらず、事故や欠勤、トラブル、さらには情報漏洩といった「業務上の致命的な欠陥」として表面化する点が、薬物問題の真の恐ろしさです。

4. さらに厄介なのは「合法の顔」をした成分・製品の境界

薬物リスクは違法薬物だけではありません。合法と誤解されやすい成分が含まれる輸入品いわゆる”グレーな製品”が入り込み、これらを使用している疑惑が発生した時点で組織は大きな損害を受けます。ここでの損害は、刑事罰よりも先に「説明責任」「信用失墜」「取引停止」「採用難」として表れます。

したがって、企業が備えるべき対象は“犯罪者”ではなく、組織の中に起こり得る、薬物問題から生じる”負の連鎖”です。

5. 組織を壊すのは薬物そのものではなく「負の連鎖」

薬物が職場に入り込むと、典型的に次の三つの連鎖が起きます。ここを止められないと、被害は指数関数的に膨らみます。

5-1. 安全からの危機の連鎖(事故)

小さな判断ミスや集中力低下が、重大事故や労災に直結します。運輸・建設・製造・危険物・精密工程では、1回の事故で事業継続そのものが揺らぎます。

5-2. 信用毀損の連鎖(ブランド毀損)

疑惑が出た時点で、取引先・金融機関・採用市場・株主・社員の視線は変わります。火消しより前に、説明責任の準備が問われます。

5-3. 法務・規定不備の連鎖(説明責任)

社内規程がない/不十分な運用体制/処分基準が不明確——このような運用体制で検査や処分に踏み込むと、逆に労務紛争・訴訟化のリスクが跳ね上がります。「やってはいけない薬物を未然に防ぐための検査」で、守るはずの会社が逆に傷つくこともあります。

6. ここからが本題:
当社の薬物検査は「重要」ではなく“必須”になる

薬物検査は「薬物使用者を炙り出すための手段」ではありません。事故と不祥事を未然に防ぎ、組織を守るための“経営インフラ”です。国境で押収が増え、供給が膨らみ、ルートが変わる局面では、検査が「例外対応」のままでは間に合いません。

当社は、検査キットを単体で販売するだけではありません。「検査キット+運用ノウハウ+説明責任(ガバナンス)」までを一体で設計し、各社の実情に合ったドラッグディフェンスを提供します。
薬物検査の運用を数多く支援してきた実務経験と知見を踏まえ、企業が抱える現場リスクに応じて、実行可能な運用手順へ落とし込みます。

6-1. 企業を救うのは「結果」ではなく「説明できる仕組み」

薬物問題で組織が追い詰められる瞬間は、陽性そのものではなく、「なぜ気づけなかったのか」「なぜ止められなかったのか」と問われたときです。当社が最優先するのは、検査結果だけでなく、会社側が説明できる形で“止める”ことです。

● 目的の明確化:安全確保/事故後対応/再発防止/採用・配属/委託管理 など

● 同意・プライバシー・情報管理:取り扱い範囲、保管、アクセス権、開示ルール

● スクリーニング→確認(確証)の二段構え:誤判定による社会的損害を最小化

● 記録性:誰が、いつ、どのように実施し、どのように判断したかを追跡可能に

6-2. 「検査して終わり」は地雷──当社が導入設計から支える理由

検査は精度だけでは勝てません。勝負は運用です。運用の手法を誤ると、検査そのものが火種になります(情報漏えい、私刑化、恣意的処分、メンタル不調・退職の連鎖)。

当社は導入時に、就業規則・安全衛生・コンプライアンスの観点から、組織に合った運用設計を整えます。必要に応じて、管理職向けの対応手順、相談導線(外部窓口の活用含む)までをパッケージ化し、検査を“防波堤”として機能させます。

6-3. 導入は「現場のタイミング」がすべて──当社の運用パッケージ

薬物リスクは業種と現場で大きく表情が変わります。当社は一般論ではなく、次の4場面に落とし込みます。

A) 採用・配属・委託前(入口で止める)

事故が致命傷になる業務(運行、危険物、医療介護、警備、機密取扱、研究開発、現金取扱など)は、入口対策が最小コストです。入口対策をすり抜けたリスクは、後で何倍にも膨らみます。例えば警察、自衛隊は入所時に全員が検査を受け、不定期にまた抜き打ち検査を行なっています。

B) 定期・抜き打ち(抑止力を作る)

薬物は「たまたま」より「習慣」で侵食します。抜き打ちの存在は“手を出しにくい環境”を作り、安全文化を支えます。運輸・物流などでは、年1回の健康診断時に行うことが多いですが、それでは常習者は、健康診断日が分かっているので、1週間から10日前から薬物接種を控えれば陽性反応が出ません。これでは本末転倒です。

C) 事故後の緊急対応(薬物汚染の範囲を絞るための措置)

薬物事案が発生した後、問題となるのは、他の従業員・スタッフは大丈夫か? という薬物汚染の範囲がどこまでなのかはっきりさせることです。当社では事故後の大規模スクリーニング検査についてもご提案いたします。

D) 兆候対応(for-cause:現場を暴走させない)

遅刻・欠勤、気分の乱高下、金銭トラブル、小事故、対人トラブルなどの兆候は、放置すれば重大化するおそれがあります。一方で、根拠なく疑念を向けることもリスクとなります。当社は、定期的な検査と非常時の対応体制を一体で整備し、組織の継続性を損なわない運用設計を行います。

6-4. 「想定外の薬物」に負けない──情勢変化に合わせた検査設計の更新

朝香氏の抜粋が示すように、政策・外交・軍事の動きは、密輸の“心理”と“物流”を同時に変えます。その時に起きるのは、薬物の置き換え・混在・分散です。

当社は、現場のリスク(業種・就業形態・地域・事故リスク)に合わせて、検査対象や頻度・タイミングを設計し、状況変化に合わせて更新できる形で提案します。

6-5. 投資対効果は「検査費」ではない──“一度の崩壊”を消すこと

比較対象は「検査導入コスト」ではなく、「一度の重大事故・不祥事の総コスト」です。賠償、取引停止、採用難、離職、再建の時間、信用毀損——これらは一度起きると、回復に年単位を要します。

国境での薬物押収が増え、供給が膨らむ局面は、“何も起きない前提”を置くほど危険になります。検査は、その前提を現実に引き戻すための経営判断です。

6-6. 当社が提供する価値(提案の型)

当社の薬物検査事業は、次の三つを一体で提供することで、検査を「燃えない仕組み」にします。

提供価値 内容(例)

提供価値内容(例)
1 .導入設計目的設定/対象業務の棚卸し/規程・同意・情報管理
/実施基準(定期・抜き打ち・事故後・兆候)
2 .検査の実施適切な検体・手順の選定/スクリーニングと確認の考え方
/記録性の担保
3 .運用・教育管理職向け対応手順/相談導線(外部窓口含む)
/再発防止の運用設計

結び:恐れるべきは薬物ではなく、「備えないまま迎える明日」

朝香氏が描く「恐怖による抑止」が米国で成立すればするほど、供給圧は別市場へ移る可能性があります。UNODCが示すように、世界の薬物市場は拡大と多様化の局面にあり、ルートの変化が起きれば、最初に被害を受けるのは“普通の現場”です。

当社は、薬物検査を“点”ではなく、規程・運用・教育・確認体制まで含めた「燃えない仕組み」として実装します。会社の安全、信用、そして未来を守るために、備えを制度にしてください。

出典

●現代ビジネス(講談社) 朝香豊「トランプのベネズエラ軍事作戦が『石油のためではない』決定的理由…真の狙いは中国への強力な牽制だった」–(筆者)朝香 豊(あさか・ゆたか)/国際政治・安全保障 分析

※抜粋
「麻薬のメインルートでもない。そもそもアメリカの麻薬問題においては、コロンビアやベネズエラから流れてくるコカインよりも、中国からメキシコを経由してくるフェンタニルの方が、問題が大きいのに、中国やメキシコを叩かずにベネズエラを叩きに行っているのがおかしいではないかなんていう主張もある。

確かに、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)によると、2024年のアメリカでのフェンタニル中毒死の推計値は48422名であるのに対して、コカイン中毒死の推計値は22174名となっている。

ここからすれば、フェンタニル対策の方がコカイン対策よりも2倍以上重要であるということになるだろう。しかもコカインの生産国は主としてコロンビアであり、ベネズエラは中継地点の意味合いの方が大きい。だから、フェンタニル対策でメキシコや中国を叩いたり、コカインの件で主要産地のコロンビアを叩くことを行わずに、ベネズエラを叩いたのは、麻薬対策が本当の目的ではないとの見方にも、一理あるように感じるのは理解できる。」

●CDC / NCHS Press Release: “U.S. Overdose Deaths Decrease Almost 27% in 2024”(May 14, 2025)

URL: https://www.cdc.gov/nchs/pressroom/releases/20250514.html

● 財務省 税関「令和6年の全国の税関における関税法違反事件の取締り状況」(令和7年2月19日公表)

URL: https://www.mof.go.jp/policy/customs_tariff/trade/safe_society/mitsuyu/cy2024/index.htm

● UNODC “World Drug Report 2025 – Key findings” (June 2025)

URL: https://www.unodc.org/documents/data-and-analysis/WDR_2025/WDR25_B1_Key_findings.pdf

● UNODC Press Release: “Rise in production and trafficking of synthetic drugs from theGolden Triangle…” (May 28, 2025)

URL: https://www.unodc.org/unodc/en/press/releases/2025/May/rise-in-production-and-trafficking-of-synthetic-drugs-from-the-golden-triangle–new-report-shows.html

● Reuters: “Global cocaine boom keeps setting new records, UN report says” (June 26,2025)

URL: https://www.reuters.com/world/americas/global-cocaine-boom-keeps-setting-new-records-un-report-says-2025-06-26/

筆者

山崎 昭(法科学鑑定研究所 所長)
法科学鑑定の専門家(火災原因・DNA・薬物・画像解析など)。複数の書籍の執筆・監修に携わるほか、ドラマ等の映像作品で法科学・鑑定描写の監修も担当。

【所属学会】
日本法科学技術学会、日本犯罪学会、日本法中毒学会、日本DNA多型学会 他

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