筆跡鑑定の判例3選!鑑定結果に証拠能力はある?徹底解説
「筆跡鑑定をお願いしたいけれど、証拠資料として認められた判例はあるのだろうか」
遺言書などの文書が偽造された可能性がある場合、多くの方は筆跡鑑定を検討するでしょう。結論を先に述べると、筆跡鑑定は裁判の証拠資料になりえます。
本記事では筆跡鑑定の判例を3つ紹介し、筆跡鑑定を依頼する場合の注意点や鑑定機関の選び方などを解説します。
筆跡鑑定の判例① 筆跡鑑定の証拠能力を争った事例
はじめに紹介するのは、 昭和40年2月21日の判決です。この判決では 筆跡鑑定の証拠能力が争われました。
事案
被告人は「脅迫ハガキを作成した」として、脅迫容疑で起訴されました。裁判によって争われたポイントは「誰が脅迫はがきを書いたか」という点です。
原告側は筆跡鑑定の鑑定結果を証拠資料として提出し、その筆跡鑑定は伝統的筆跡鑑定と呼ばれる手法を用いており、脅迫ハガキは「被告人によって書かれた」との鑑定結果でした。しかし、被告人側は「伝統的筆跡鑑定には証拠能力がない」と主張。判決は最高裁判所に委ねられることになりました。
判旨
最高裁判所は脅迫の訴えを棄却しました。つまり、「伝統的筆跡鑑定には証拠能力がない」という被告人の主張を認めたのです。以下が判旨です。
しかしながら、いわゆる伝統的筆跡鑑定方法は、多分に鑑定人の経験と感に頼る ところがあり、ことの性質上、その証明力には自ら限界があるとしても、そのこと から直ちに、この鑑定方法が非科学的で、不合理であるということはできないので あって、筆跡鑑定におけるこれまでの経験の集積と、その経験によって裏付けられ た判断は、鑑定人の単なる主観にすぎないもの、といえないことはもちろんである。 したがって、事実審裁判所の自由心証によつて、これを罪証に供すると否とは、そ の専権に属することがらであるといわなければならない。 |
判例のポイント
なぜ被告人の主張を認めたのかというと、伝統的筆跡鑑定方法には科学的根拠が見出せないと判断したからです。伝統的筆跡鑑定方法とは文字の癖を見極め、比較する筆跡と同じものかどうかを鑑定するものです。つまり、鑑定結果は鑑定人の主観によって左右されてしまいます。
伝統的な筆跡鑑定法ではこのように判決される恐れがあるため、当社では多変量解析や数値解析を用いた手法を併用することで客観性を担保しています。
証拠品はいわゆる「ドーバート基準」を満たさなければ認められない、とされることも少なくありません。ドーバート基準とは以下3つの基準を意味します。
- 科学的な根拠があり実証できるか
- ピアレビューもしくは出版されているか
- 専門分野で一般的に受け入れられているか
伝統的筆跡鑑定方法の場合、すべてにおいて基準をクリアすることは難しいといえます。
一方、上記3つの基準をクリアできれば、筆跡鑑定でも「証拠能力がある」とみなされる可能性は十分にあります。実際に、当社は警察や裁判所からの鑑定依頼も多数実績があります。
筆跡鑑定の判例②鑑定結果が判断材料になった事例
続いて、仙台高判令和3年1月13日の判決です。この判決では、複数の鑑定人が異なる鑑定書を作成したところ、最終的には裁判所が鑑定結果などを検討し、遺言書の効力がないと判断しました。
事案
事件の焦点は「自筆証書遺言が偽造されたか、されなかったか」という点です。原告のXらは、共同相続人であった被告Yらに対して「被相続人A名義の自筆証書遺言書は偽造されたものであり、無効である」と主張しました。
一方、被告Yは筆跡鑑定の結果を提出し、「遺言書は偽造ではなく、Aによるものだ」と反論。原告のXらも同一性を否定する鑑定書を提出し、判決は裁判官に委ねられました。
判旨
裁判では、「被告Yの主張は認められない」とし「遺言書の効力は無効である」という判決が下されました。
そして、Aの筆跡との同一性を肯定した私的筆跡鑑定書2通について、C鑑定書は冒頭の署名部分以外の記載の筆跡を検討しておらず、そのために筆継ぎを偽筆の特徴として挙げながら、本件道言書に8か所記載されている本件誤字のうち4か所に筆継ぎと思われる部分が存することを看過しているなどの致命的な欠陥が存するし、D鑑定書も,一般論としては筆跡を模倣しようとした偽造筆跡の場合には字形が類似するのは当然であるとして類似分析の鑑定手法を批判しながら、本件道言書の検討に当たっては自らが類似分析の手法に陥っているなどと批判して、これらの信用性を否定し,結論として、少なくとも本件道言書自体によってAが自書したことが立証されているとは到底評価できないとした。 |
判例のポイント
本件では、複数の鑑定書が提出されました。その中で裁判官は「筆跡鑑定の信憑性」を注意深く検討し、判決を下しています。
この判例からいえることは、筆跡鑑定は「鑑定によって裁判官の心証を大きく左右する」という点です。筆跡鑑定の信憑性が弱いと証拠品として認められないどころか、かえって不利になってしまいかねません。筆跡鑑定機関は慎重に選びましょう。
筆跡鑑定の判例③鑑定結果の採用を覆した事例
最後に紹介するのは、平成12年10月26日の判決です。筆跡鑑定の結果、一審では「同一人物ではない」と認められたものの、二審ではその結果に疑問を呈され、一審での筆跡鑑定結果が無効となりました。
事案
争点は「遺言書の筆跡は誰のものか」という点です。被相続人である母Xは「末娘Aに全財産を与える」という遺言書を書いたと考えられました。
それに反発したのが姉Bと兄Cです。姉Bと兄Cは筆跡鑑定を依頼し、「遺言書の筆跡はXのものではない」と主張。一審では姉Bと兄Cの主張が認められたものの、二審で筆跡鑑定の結果を疑問視され、判決が覆り、最終的に遺言書は「有効である」と認められました。
判旨
「科学的な検証を経ていない」という理由のもと、本事案による筆跡鑑定の証明力が否定されました。
なお、筆跡の鑑定は、科学的な検証を経ていないというその性質上、その証明力に限界があり、特に異なる者の筆になる旨を積極的にいう鑑定の証明力については、疑問なことが多い。したがって、筆跡鑑定には、他の証拠に優越するような証拠価値が一般的にあるのではないことに留意して、事案の総合的な分析検討をゆるがせにすることはできない。 |
判例のポイント
筆跡鑑定はかならずしも、裁判の重要な証拠品になるとは限りません。裁判では筆跡鑑定以外の要素も総合的に分析し検討するからです。
ただし、科学的根拠に基づいた鑑定結果であれば、なんらかの形で裁判官の判断材料になる可能性は高いといえるでしょう。
筆跡鑑定の判例からわかること
これまでの判例結果から、筆跡鑑定にいえることは以下のとおりです。
- 裁判において筆跡鑑定は判断する材料の一つに過ぎない
- 科学的根拠があれば筆跡鑑定は証拠品になりうる
裁判を判断する材料の一つに過ぎない
筆跡鑑定はあくまで裁判を判断する材料の一つです。今までの判例を見てみても、筆跡鑑定が判決の決め手になったことはありません。だからこそ、筆跡鑑定は「いかに信憑性を高くするか」が非常に重要です。
例えばDNA鑑定の場合、100個の機関で鑑定しても基本的に同じ結果です。一方、筆跡鑑定は鑑定機関によって結果が異なる可能性もあります。したがって、鑑定結果に加え「どのような方法で鑑定したか」「どのような機関が鑑定したか」という点も重要です。
科学的根拠があれば証拠品になりうる
筆跡鑑定は科学的根拠があれば証拠品になりえます。 昭和40年2月21日の判決で筆跡鑑定が認められなかったのは、科学的根拠によるものではなかったからです。逆に考えると、科学的根拠に基づいていれば証拠品になる可能性が高いといえるでしょう。
昭和40年の頃と違い、現在では最先端の機器や技術を用いて筆跡鑑定をおこないます。例えば当社の場合、デジタルマイクロスコープやESDAという静電検出装置などを用いて鑑定します。
筆跡鑑定機関を選ぶポイント
重要なのは筆跡鑑定機関の選び方です。筆跡鑑定機関は以下3つのポイントを重視して選びましょう。
- 科学的根拠を用いて鑑定しているか
- その業界でどれだけ評価されているか
- どれくらいの実績があるか
科学的根拠を用いて鑑定しているか
判例で見たとおり、科学的根拠がない筆跡鑑定は基本的に「証拠能力がない」と判断されます。逆に、科学的根拠があれば証拠能力を認められる可能性が高いです。
例えばDNA鑑定の場合、筆跡鑑定と違い、裁判において「最も重要な証拠品の一つ」とされることも珍しくありません。その理由は、DNA鑑定が科学的根拠に基づいて分析されているからです。
筆跡鑑定機関を選ぶ場合、「どれだけ科学的根拠に基づいた鑑定をおこなっているか」に注目しましょう。
その業界でどれだけ評価されているか
筆跡鑑定人の鑑定手法が業界で一定以上の評価を受けていることが大切です。筆跡鑑定手法の理論や技術が学会などの科学者のコミュニティでチェックされていたり、学術論文として出版されていたりすることをチェックしましょう。
例えば当社の場合、以下のコミュニティに所属しています。
- 日本応用心理学会
- 日本法科学技術学会など
Webサイトで「このような学会に参加しているか」を確認してみてください。
どれくらいの実績があるか
筆跡鑑定人を選ぶ際には、どれほどの実績があるかも重要なポイントです。実績があればあるほど、筆跡鑑定の有効性があることの証拠になるでしょう。
単に実績があるだけでなく、「どこに筆跡鑑定を提供しているか」を確認することも大切です。例えば、個人からの依頼に対して検査回答書を出しているだけでは、「実績がある」とは言い難いでしょう。
検査回答書はあくまで検査結果を報告するものであり、基本的に裁判の証拠として認められることはありません。裁判で使いたい場合、かならず「裁判資料」として筆跡鑑定をおこなってもらいましょう。
筆跡鑑定なら法科学鑑定研究所
今まで説明したとおり、筆跡鑑定は鑑定機関を選ぶことが非常に重要です。証拠能力のある筆跡艦隊を期待したい方は、ぜひ法科学鑑定研究所の筆跡鑑定をご利用ください。
ここでは法科学鑑定研究所を選ぶ理由を3つ説明します。
最新の機器や技術で科学的に鑑定する
法科学鑑定研究所の筆跡鑑定は、以下の2つを用いておこないます。
- 科学的な手法
- 最新機器・最新技術
さらに、担当するのはテレビドラマなどでおなじみ「科学捜査研究所(科捜研)」のOBです。単に探偵事務所などで修行をしただけの鑑定人ではなく、数多くの高度な実務を経験した筆跡鑑定のエキスパートです。
専門性の高い学会に所属している
法科学鑑定研究所は日本応用心理学会、日本法科学技術学会などの学会に所属し、鑑定手法について多くの研究論文を発表しています。これらは日本でも有数の歴史ある学会です。
例えば2023年2月時点において、日本応用心理学会には100年近い歴史があります。
まず関西では,1927年頃に,各種テストを検討するための研究会が生まれ,これを応用心理学会と呼んでいました(のち,関西応用心理学会となり,現在の関西心理学会の母体となる)。続いて1931年には,東京在住の心理学者が中心となり,研究者間の交流の場として応用心理学会が誕生しました。 |
どちらも入会するには、一定の条件をクリアしなければなりません。当社はこれらの学会で毎年研究を発表し、有識者からの意見や指摘を受けることで鑑定手法の改良を重ねています。
裁判所や官庁からの依頼実績が多い
法科学鑑定研究所では研磨された科学的かつ客観的な筆跡鑑定をおこなうことから、裁判所や官庁、警察庁などからの依頼も多いです。また、民事事件に関する筆跡鑑定も全国の法律事務所や弁護士事務所から数多く依頼を受けています。
なお、過去5年間の累計受任件数は、約400件以上、相談累計は3,000件以上です。もし「裁判で筆跡鑑定を証拠品として提出したい」「相手側が出してきた筆跡鑑定の内容を覆したい」と考えているなら、ぜひ当社の筆跡鑑定をご利用ください。