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用語集

DNA型鑑定

DNA型鑑定あるいはDNA鑑定とは、DNA多型の存在する部位を検査し、それが誰のDNAのものであるのかを特定することによって個人識別を行うことです。
子供のDNAは父親および母親から1対ずつ受け継がれるため、それを利用し親子鑑定をおこないます。
なお、DNA型鑑定に用いられる部分は、身体的特徴や遺伝病などの遺伝情報を持たない部分について検査しています。
現在、用いられている検査方法では、DNAの塩基配列そのものではなく、4塩基を1単位とする繰り返し数をもつ部位(DNA多型領域)を検査します。
従って、私たちは、「DNA鑑定」というより「DNA型鑑定」と称します。

DNA多型

DNAの塩基配列のうちには、同じ塩基配列が繰り返して存在する反復配列領域があります。
この反復配列の繰り返し数が人によって異なることを利用して行うという方法が、世界的に共通した方法です。
現在、世界の多くで使用されているのは、マイクロサテライトという反復配列領域です。
このDNA多型は、STR(Short Tandem Repeat)多型といわれるもので、繰り返し単位が2~5塩基と短く、この繰り返し単位が個人によって異なることを利用して個人識別を行います。

5’末端・3’末端(5プライムエンド・3プライムエンド)

DNAは、分子が螺旋階段のように結合して鎖を成しています。
結合体である階段の一つ一つは、塩基baseのほかに、糖sugarとリン酸phosphateからなっています。
塩基はA(アデニンAdenine)、T(チミンThymine)、G(グアニンGuanine)、C(シトシンCytosine)からなり、AとT、GとCが結合する。この規則は、互いに「相補性がある」と呼びます。
糖は炭素carbon、水素hydrogen、酸素oxygenからなっています。
糖を構成する炭素は5つあり、それぞれ1’位、2’位、3’位、4’位、5’位炭素prime carbonと呼ばれます。
3’位炭素と5’位炭素の間にリン酸が介在して互いを結合させる接着剤の役目を果たしているので、2本の鎖からなるDNAは、一方の鎖の末端が5’位炭素なら、もう片方の末端は3’位炭素という具合に対になっています。
従って、2重らせん構造は、下のように表すことができます。
5′ – G A C C G A G G T C T A A A G C – 3′
3′ – C T G G C T C C A G A T T T C G – 5′

PCR(ポリメラーゼ連鎖反応=Polymerase Chain Reaction)

ごく微量のDNAから、特定のDNA断片を酵素によって大量に複製し増やす技術です。
検体から抽出した微量のDNAを含む溶液に、プライマー(数個のヌクレオチドをつないだ「オリゴヌクレオチド」)、酵素であるDNAポリメラーゼ、複製するDNAの合成材料となる4種類のデオキシヌクレオチド三リン酸を加えます。
この溶液を95℃付近に加熱すると、DNAの2本鎖はほどけて1本鎖になります。
これを50℃~65℃まで下げると、プライマーが相補的な位置に結合し、DNAのうえにRNAが合成されます。
これは複製の起点・終点となるもので、そこから、DNAポリメラーゼがオリゴヌクレオチドをつないでいき、複製となる2本鎖を作 ります。
こうしてハイブリダイズ(複製)されたDNA溶液を再び95℃付近に上げ、上記の過程を繰り返すと、目的となるDNA塩基配列の領域が乗数的に増えて行きます。
複製の起点・終点を作るために、プライマーは2種類が必要となります。

プライマー(Primer)

PCR法で用いられる試薬、増幅する領域(1000塩基程度まで)の両端から20塩基程度の配列に結合できる相補対となる短い塩基断片。PCRで増幅する範囲を定める試薬のこと。

対立遺伝子(アリール=allele)

個人は父母それぞれから、精子と卵子を通じ染色体のコピーをワンセットづつ受けます。
このコピーである染色体の特定の位置(ローカス・遺伝子座)には、幾つか異なるタイプがあり、それぞれのタイプを総称してアリールと呼びます。
受け取ったアリールが、互いに同一タイプであればホモhomozygousといい、異なっていればヘテロ(heterozygous)と言います。
こうしたアリールの同一や違いは、遺伝子タイピングとして、親子鑑定や犯罪捜査に用いられます。
たとえば、犯罪現場に残された細胞から抽出したDNAについて、あるローカスのアリールが被疑者のものと一致すれば、被疑者が犯罪現場にいた確率は大きくな りますが、その他について不一致であれば、別人ということになります。
反対に、どれも一致すれば、被疑者が犯人である確率は極大化されます。

塩基対(base pair)

DNAらせん二重構造の上に並んでいる単位分子、A(アデニンAdenine)、T(チミンThymine)、G(グアニンGuanine)、C(シトシンCytosine)は、AとT、GとCが互いに相補的に結びついてペアを組んでいます。
すなわち、2本ある鎖の一方の塩基配列が解れば、もう片方の鎖の塩基配列は解ってしまいます。
このペアを塩基対と呼びます。
ヒトの一つの生殖細胞中には、約30億塩基対が存在します。

ゲル(ポリアクリルアミド・ゲル/アガロース・ゲル)

ゼラチンやゼリーのように、液体のなかに分散した粒子間の結合により、ゼリー状に固化した状態をゲルと言います。
アガロース(agarose)とはゲル化しやすい中性多糖であり寒天の主成分。 (生体物質の分解を行う為の電気泳動に用いられるゲルの主要成分)
DNA分析試験では、制限酵素の働きで様々な長さに切断されたをDNA断片を、電気泳動により大きさ別に分離するために用いられます。
1000塩基対までの比較的短いDNAの分離にはポリアクリルアミド・ゲルを使い、1000塩基対から2万塩基対程度の長さのDNA分離にはアガロース・ゲルを使うのが目安とされています。

サザン・プロッティング(Southern blotting)

遺伝子工学の基本手法のこと、DNA指紋法のMLPやSLPの型判定では、ゲル電気遊動後にDNAを丈夫なナイロン膜に写し取り、プローブで検出します。
このナイロン膜に写し取る方法を開発した方の名前が「サザンさん」。だからこの手法をサザン・プロッティングと呼びます。

電気泳動(Electrophoresis )

個体別のDNAマーカーを検出するため、サザン・ブロッティング法において用いられる技法の事をいいます。 制限酵素により様々な大きさに切断されたDNA断片をゲルの片側に置き、一方を陽極(+)、片方を陰極(‐)にしておくと、マイナスに帯電しているDNAは陽極に向かって移動を開始します。
この時、大きいDNA断片はゲルの網状組織に阻まれ、小さいDNA断片よりも移動速度が遅くなります。反対に、小さいDNAは移動の先端になるので、一定時間後、DNA断片は大きさ(分子量)ごとに分画分離されていきます。
ただし、電気泳動をしただけではDNAの分布は肉眼で見えないので、ゲルをナイロン紙のフィルターで写し取り、アルカリ溶液に漬けて2本鎖を1本鎖に分離しておきます。
このフィルターに蛍光色素や放射性同位元素を入れたプローブ(特定の大きさを持ったDNA断片)の溶液に漬けると、相補性によりプローブと結合したDNA断片が発色、もしくはX線感光紙に写し取られてバンド・パターンを生じます。

制限酵素(Restriction Enzyme)

限られた数の特異的な塩基配列を認識して切断する酵素の総称です。
自然界では、細胞内に侵入してくる外来のDNAを切断排除する働きをしています。
必須因子や切断用様式により、違うタイプの制限酵素を使用します。
制限酵素は、塩基配列がパリンドローム(回文palindrome)になっているところで切られます。

[粘着末端切断]
切断前 粘着末端切断
5′-TCGAATAAGCTTGGAGCA-3′ → 5′-TCGAATA  AGCTTGGAGCA-3′
3′-AGCTTATTCGAACCTCGT-5′ → 3′-AGCTTATTCGA ACCTCGT-5′
パリンドロームとは、回文構造の事を言います。
どちらから読んでも同じになる構造の事です。例えば「akasaka=赤坂」「しんぶんし=新聞紙」など

ミニサテライト (minisatellite)

ヒトゲノムにあって、10塩基程度から数十塩基を反復単位として数十から数百回縦型に反復している遺伝子座(ローカス)のこと。このような遺伝子座(ローカス)は繰り返し数の多型が生じる。
ヒトゲノムでは数千の遺伝子座(ローカス)があるとされています。

MCT118(科警研・笠井先生が発見したミニサテライト)

ミニサテライトとしては例外的に全長が短く、最大のアリールでも800塩基程度のためSTRのようにPCRを利用して型判定できる。
このMCT118は、特定の並び方をした16個の塩基が何度も繰り返して出現し、その回数は人によって14回から42回まで、29の 型に分けられ個人差が生じることになる。
染色体は、両親から1本ずつ受け継ぎ、一番染色体は1本で1組だから双方の繰り返しの回数の組み合わせから435通りの型があることになる。
刑事裁判などに多用されたがSTRキットが主流となり、活躍が少なくなりつつある。

プローブ(Probe)

相補的な核酸が互いに結合して2本鎖になるという性質を利用して、このときに標識として使用するDNA断片をプローブ(「探り針・探索機」の意)と呼ばれます。
サザン・ブロッティングでは、あらかじめ蛍光色素や放射性同位元素を加えておきます。
ゲルからフィルタに転写したDNAをプローブ液に浸すと、相補的結合が起きて色が変化したり、X線が放射されるので、それを感光紙に写し取るなど、バンド・パターンの可視化に使われ ます。

ミトコンドリアDNA(mtDNA)

栄養素をエネルギーに変える働きをする細胞内器官です。
DNA鑑定では、D-loopと呼ばれる1100塩基対のなかに、DNA核酸よりも高い突然変異率を持つ二つの領域があり、mtDNAとして用いられます。
mtDNAは分子量が小さく、一つの細胞中に豊富に存在するので、古人骨、毛髪、爪などに含まれる、ごく微量、もしくは陳旧・劣化した細胞からも遺伝子型の判定が可能です。
ただし、全て母方から受け継ぎ、ローカスが一つしかなく、技術上の課題や試験結果について解釈上の問題も残されているので、通常のDNA鑑定では判定が不可能な場合に用いられることが多いのです。

Dループ

mtDNAは、ヒト細胞内の小器官であるミトコンドリアに存在する固有の環状DNAです。
mtDNAは、細菌DNAと同様に、ほとんどがコード領域ですが、一部のみ非コード領域があり、その部分をDループと呼びます。
このDループもコード領域の発現をコントロールしているので、コントロール領域とも呼ばれます。

遺伝子座(ローカスlocus)

染色体におけるDNA塩基配列のうち、特定の位置をローカス(遺伝子座)といい、その異形体をアリールと言います。
遺伝子とローカスの違いは、ローカスが染色体にそったタンパク質の配列を表わすのに対して、遺伝子はその位置がわかりません。
特定のローカスが遺伝子を表わすのかも知れず、そうでないかも知れません。
DNA鑑定においてローカスが重要なのは、一つの細胞で約30億塩基対という膨大なタンパク質の配列の中から、特定の場所を他と切り離して分析し、個人単位のプロファイルを作り、親子鑑定もしくはDNAフィンガープリントとして用いる事にあると考えられています。

マルチプレックス法

STR多型は、PCRによってDNAの特定領域増幅し、多型による増幅断片の長さの違いを測定し型判定されます。
その時、断片長の範囲が異なるDNA領域と、検出のための蛍光標識試薬の色を組み合わせて互い違いに区別出来れば、1回のPCRで多数の遺伝子座(ローカス)を同時に判定できます。
この手法をマルチプレックスと言います。

連鎖

DNAの塩基配列に書き込まれたヒト遺伝情報において、同じ染色体上で近い位置にある複数の多型を示す遺伝子座(ローカス)のアリールが独立に遺伝せず、同じアリールの組み合わせが連鎖してに遺伝する現象を連鎖と呼ぶ。
連鎖があると、それぞれの遺伝子座(ローカス)は独立に伝わらないので、互いの遺伝子型の頻度を掛け合わせることは出来ない。

突然変異

DNAに記録されたヒトの遺伝情報は、基本的に忠実に子孫に伝えられるが、時に間違って伝えられることがある。その間違いを突然変異という。
突然変異は生殖細胞を造る減数分裂で多く生じます。
DNA鑑定でよく用いられるSTRでは、突然変異は平均で0.2%程度起こることが観察されています。

ヘテロ結合体

2倍体生物であるヒトは生物学的母と生物学的父からペアとなる染色体を引き継ぐ。
したがって、同じ多型領域で(ローカス)で2つのペアタイプを持つことになる。それらが同じものをホモ結合体といい、違うものをヘテロ結合体という。

ELSI(Ethical, Legal, and Social Issues)

アメリカでヒトゲノム計画に多額の予算が組まれたとき、その予算から5%を「倫理的」「法律的」「社会的」問題に投入するとの条件が組み込まれました。
アメリカでは、ヒトゲノム・遺伝子・DNAなどの研究は、多くの討論が何度も繰り返され、多くの市民から支持を得て、研究・開発・事業など、飛躍的ですが確実に進められています。
日本では、このような条件はなく、予算もほとんど、ありません。
(つまり、何でもあり?・・倫理は研究者の良心に任せた・・と、○○せんせい)
(それって、大戦中の大和魂でなんとかしろ!・・どこか似てない?)
(こんな状況で・・本当に良いのでしょうか?)