COLUMN
2022.06.24

尤度比 と 父権肯定確率 について

DNA鑑定の結果には必ずと言って良いほど尤度比や 父権肯定確率 などの数値が表記されています。これらの数値は何を意味しているのでしょうか? その点について解説いたします。

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【尤度比(ゆうどひ)って?】
尤度比(ゆうどひ)とは統計で用いられる考え方で、「2つの異なった仮説の下で同じ証拠に対する確率の比」となります。DNA親子鑑定では父子鑑定の場合、父性指数(Patanity Index)と記載されることも多いです。

では、父子鑑定で親子関係が成立する場合を例に「2つの異なった仮説の下で同じ証拠に対する確率の比」を考えてみましょう。「同じ証拠」とは「父子鑑定で親子関係が成立している」こと。2つの異なった仮説とは「擬父から子の型と同型の子が生まれる確率」と「任意の男性から子の型と同型の子が生まれる確率」です。すなわち、DNA鑑定の結果で親子関係が成立している時でも「擬父から子の型と同型の子が生まれる確率」と「任意の男性から子の型と同型の子が生まれる確率」を比較し、どちらが尤(もっと)もらしいか?という意味になります。言い換えると、「他の男性のDNA型がたまたま一致して親子関係が成立している」ということについて検討しています。

【尤度比はDNA型鑑定の結果を中立に示すもの】
この尤度比は検査した全ての遺伝子座で考えられており、遺伝子出現頻度(どのくらいの割合でこの遺伝子が存在するか)によって計算されます。全ての遺伝子座の尤度比を総合して擬父と子どもの関係を見るため、最終的には「総合尤度比」として算出されます。総合尤度比は統合父性指数(Combined Patanity Index)とも言われます。これからわかるように遺伝子情報のみで示される指数が総合尤度比となります。尤度比は「確率の比」となるので、整数で表記されます。仮に総合尤度比が1000だった場合、「擬父から子の型と同型の子が生まれる確率」は「任意の男性から子の型と同型の子が生まれる確率」に比べて1000倍尤もらしいという意味になります。このように考えると少しわかりやすくなったかと思います。

【 父権肯定確率 って?】
では、 父権肯定確率 はどのような数値なのでしょうか? 父権肯定確率 は、0%や99.9%などパーセントで表記されます。 父権肯定確率 は先程の尤度比と「事前確率」によって計算されます。事前確率はDNA鑑定結果以外の点についての確率を示していますが、特段の事情がない限り0.5となります。(※事前確率が0.5となる理由は、「真の父親である確率」と「真の父親ではない確率」を同じ重さとして取り扱うという意味になります。)つまり、 父権肯定確率 は本来、DNA鑑定の結果以外も含めて考慮した確率を示しています。しかし、事前確率が0.5の場合は、DNA型鑑定の結果に依存していることになります。

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【参考】DNA鑑定による法医学的個人識別の確率・統計学的背景 ⻘木博康DNA鑑定とタイピング John M. Butler