インク・紙 の成分分析
インク・紙の成分分析
科学成分分析による筆跡鑑定の方法です。筆記具、インク類、用紙などの鑑定に有効とされる手法です。
加筆などの疑いがある文字からインク等を取り出し科学成分分析し真偽の判定を行います。
加筆などの疑いがある文書に残された「文字」が同じ筆跡器具を使用したものなか否かの判定には、破壊検査である「高速液体クロマトグラフ (HPLC)」や「FT-IR (赤外分光)」を使用します。
検査資料の状態により「赤外分光法(IR)」や「蛍光X線回析」「ラマン分光法」などの分析検査も登場します。
顕微ラマン分光検査
書かれた文字インクが同一のものか否か、書き足しや偽造の手が施されても、ボールペンのインクが違えば、後から手が加えられたと証明が可能になります。
Thermo社製 FT-IR Nicolet 6700 (フーリエ・赤外分光・ラマン分光)
CSI-科学捜査班に頻繁に登場していたモデル・・ずいぶん有名になりました。
ボールペンインクの異同識別検査PLOT 実際に行われた検査の結果
これらのデータから、どのペンが、どの書類と一致するのか探ります。
ガスクロマトフィ/質量分析 GS/MS
GC/MSは化学物質を基本的な構成に分離し物質を特定する事ができます。
みな同じに見えるボールペンでも、分析検査を行えば、かなりの精度で識別することが可能になります
また、紙の成分の違いも判定する事が可能です。
科学捜査における紙の成分分析「ヒットラーの日記」
1980年代、ドイツの大手出版社が全世界発売を夢見た「ヒットラーの日記」
ドイツの大手出版社にヒットラーが書いた日記とされるものが持ち込まれました。
出所は不明でしたが、裕福なナチス記念品コレクターであるとされ、日記は全部で27冊あり、その中にヒットラーの自伝『我が闘争』の未発表の第3巻も含まれていました。
出版担当者たちは歴史的な大ヒットの可能性を夢見ます。
そして日記の真贋を確認するため、民間の自称 筆跡鑑定人に依頼、判定の結果「本人の可能性が高い」との評価を受け、出版を目指し進みだします。
「ヒットラーの日記」はドイツのほか、イギリスとアメリカで出版されることになり、再度 西ドイツ警察の法科学者たちが検査を行うことになりました。
西ドイツ警察の法科学者たちによる報告は、状況を覆す結果となりました。
法科学の研究者たちは、筆跡鑑定を視野に入れず、紙とインクの成分に着目した検査が実施されました。
その結果、紙にはブランコフォーと呼ばれる漂白剤が含まれており、この漂白剤は第二次世界大戦後に開発されたもので、製本用糸は近年のポリエステルでした。
また1943年に書かれたはずの日記、書かれた文字のインクを成分分析すると、インクは近年に発売された新型であり、発売されて1年ほどしか経っていないことが確認され、日記の文字は書かれてから1年ほどしか経っていないと判断されました。
そして、総合的・科学的な判断から「偽物」と判定されました。
この事件は、科学捜査における筆跡鑑定の幅の広さを見せつける結果となりました。
現在でも刑事訴訟の裁判には「成分分析による筆跡鑑定」が度々登場し、科学的な鑑定として、重要な証拠と考えられています。
参考文献:『詐欺とペテンの大百科』青土社:2001年・ロバート・ハリス著、芳仲和夫訳『ヒットラー売ります 偽造日記事件に踊った人々』朝日新聞社:1988年
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