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指紋鑑定

指紋検出試薬

指紋検出試薬

科学捜査の主役、指紋の検出に使用される試薬を少しだけ、ご紹介します。

※全て「劇薬」です!素人や一般の方は絶対に、取り扱わないで下さい。

教材として使用する場合など、教員・指導者の方々は、問い合わせ頂ければ、注意点など、ご協力いたします。

子供達を楽しい科学実験の事故から守りましょう。

ヨウ素-Iodine

ヨウ素はヒトのタンパク質に反応します。
褐色の結晶ですが、昇華性でヨウ素の蒸気がでます。

ヨウ素はアミン、ベンゼン環、二重結合などがあると錯体を形成して褐色になります。着色は永久的なものではなく一時的なもので、時間が経つと消えてしまいます。
ヨウ素の錯体形成が平衡反応のためです。
放置すると消えますが、ドライヤーなどを使うと、速く消すことができます。このような性質のため、ヨウ素を指紋検出の予備的な検査に使用されます。

ヨードガス (Iodine Fuming)

ヨードの結晶を加熱して蒸気化し暴露する。紙や木など多孔性の素材に用いられる。
ヨード・ガン=左上キャップを外し、右下ビニール管から息を吹き込む)
このヨードガスは、その昔、CIAやKGBのスパイが多用した事で有名になった方法。ヨードガスで検出した指紋は空気に触れると徐々に中和され元の状態に戻る。つまり、指紋検出の痕跡を残さず目的の作業が出来る。と、言うことまた、シクロヘキサンを用い溶液化することができ、噴霧器で検出することも可能。

ニンヒドリン-Ninhydrin

ヒトの汗などに含まれるアミノ酸に反応します。
紙類などの検出に頻繁に使用される化学物質です。
紙や布などの表面に薄く噴霧し加熱すると赤紫色の指紋が現れてきます。

ベース溶剤は2種、アセトンベース、もしくは石油系ベース(メタノール・イソプロパノール・ベンジン)検出反応精度はどちらも変わりませんが、予備検査を実施し資料にダメージが少ないベース溶剤を選択し使用されます。
比較的に安定した検出と取り扱い易い溶液である事から潜在遺留指紋検出に多用されていましたが、検出精度が劣るために、徐々に姿を消しています。

DFO-1,8-Diazafluoren-9-One

アミノ酸と反応して淡いピンクかかった紫色の色素を生成する化合物です。
この試薬の特徴は、特に二次的な操作をしなくても室温で強い蛍光を発することと、反応時間が30分以内と短いことです。

検出方法は簡単で、DFOの溶液に漬け、100℃で加熱するだけです。
蛍光は白色光でも淡いピンク-紫の線が見えますが、530nmで励起すると570-600nmの蛍光がハッキリ見えます。
蛍光の強度は室温でも強く、冷却しても変化はありません。
時間が経過すると湿気を吸って蛍光は弱くなりますが、再度加熱すると元の強さになります。

DFOはニンヒドリンに比べて2~3倍強いですが、強い光を照射しなければならないのが欠点です。DFOはニンヒドリンと同じく、感熱紙などの感熱性のものには使うことはできません。

四酸化ルテニウム-Ruthenium Tetroxide(RuO4

四酸化ルテニウムによる指紋の検出は、ヒトの油分(脂肪分)に反応します。
反応色は暗褐色で反応速度は、すみやかに現れます。検出精度は、ニヒドリンの3~5倍と高精度の試薬です。

この試薬の最大特徴は、皮膚への影響が出ない事です。ヒトの油分のみに反応する利点により検体のDNAを汚しません。
近年、指紋検出試薬としては最高峰と科学者に絶賛されている試薬です。

四酸化ルテニウムは薄黄色の不安定な結晶物です。
強い酸化性のため取り扱うのが非常に難しく従来の方法はほとんど非実用的でした。
これらの問題は「科捜研OB 益子賢蔵先生」の研究により、飽和炭化水素を利用する事によって改善されました。

専用の噴霧器に試薬を入れ使用されます。軽く触った指紋の検出が可能な為、遺留指紋の検出に威力を発揮します。

四酸化ルテニウム、皮膚からの指紋が検出可能なため、アメリカで起きた連続殺人事件で絞殺犯人の指紋を被害者の人体から検出し、一躍世界中の科学捜査関係者の話題を独り占めした試薬です

日本で開発されたものですが、FBIやCSIなどに正式採用され、
海外での評価が非常に高い潜在指紋検出試薬です。

よく海外の映画やドラマ、小説などに登場していますよね。

シアノアクリレート-Cyanoacrylate

一言でいえば瞬間接着剤を溶媒調整し蒸気状態にしたモノです。

シアノアクリレートは水分に反応しポリマーに変化します。
比較的新しい指紋、つまり指紋に水分が残っている場合に使用されます。実際の指紋検出現場では、その状況に合わせ、何種ものシアノアクレートに溶液や塗料などを混合させ使用されています

シアノアクレートは溶液タイプとドライタイプがあり、揮発性は溶液タイプが優れ、ミキシングによる自在性はドライタイプが優れているDAB(Diaminobenzidine)を混合することにより、血痕指紋にも対応することができます。

日本の科学捜査研究所で開発された検出方法で、現在では世界中の警察機関に納入され使用されています。

アミドブラック-Amido Black

アミドブラックは、ヒトのタンパク質に反応し藍色に変化させる科学物質です。
この性質により、各種の溶液などを混ぜ合わせ、指紋の検出ばかりではなく様々な場面で使用されます。

アミドブラック・メタノール溶液

血痕指紋・血痕足跡の検出に用いられています。
ナフトール・氷酢酸・メタノールを磁気攪拌機を用い丁寧に攪拌しスプレーする。
その後氷酢酸メタノール溶液ですすぎ、最後に精製水で洗う。但し塗料やペンキの上に付いた指紋は不可、溶けて流れてしまうから。

アミドブラック水溶液

血痕指紋・血痕足跡の検出に用いられています。
ナフトール・氷酢酸・精製水・蟻酸・炭酸ナトリウム・5-スルホサリチル酸を丁寧に攪拌しスプレーする。
5分程度で血痕指紋が鮮明固定化される。

オスミウム-Osmium

四酸化オスミウム(OsO4)は揮発性の酸化剤で、汗に含まれる不飽和化合物と反応して黒くなります。

操作は簡単で、ガラス容器に結晶を入れ、その蒸気に触れさすだけです。
現像時間は1~12時間で、暗灰色の指紋が現われます。
表面が多孔質であってもよく、ニンヒドリンが反応する紙幣にも有効です。
ニヒドリンよりも高精度の指紋検出が可能です。

しかし、四酸化オスミウムの毒性が取り扱いを、より難しいものとしています。
毒性の強さは強力で、蒸気を吸い込んだり皮膚に着いたりしても、人体に致命的なダメージを及ぼします。
特殊な指紋検出器具を使用し指紋検出されます。

DMAC-Dimethyl Amino Cinnamaldehyde

ヒトの汗に含まれる尿素に反応して発色反応します。
DMACの溶液で処理すると臙色の指紋がすぐに現れます。

尿素は紙の中を移動しやすいので、72時間以内の新鮮な指紋でないと発色しません。
その特徴を利用し、新鮮な指紋と古い指紋の区別をするのにも、用いられます。

別の利用方法として、DMACを蒸気化し特殊フィルターを用い蛍光観察すると、90日経った指紋 でも確認でき、それを撮影し証拠として残すことも可能です。
この試薬も扱い易いため、科学捜査の現場で頻繁に使用されています。

5-MTN

5-MTN は、ニンヒドリンの強い色とDFOや1,2-INDの強い蛍光を合わせたような性質を持っています。

5-MTNはニンヒドリンよりも色が濃いので、試薬の濃度が薄くてもよく、3 g/lの濃度でニンヒドリンと同程度の色がでます。

塩化亜鉛で処理するとニンヒドリンの薄ピンク色よりも、もっと赤みがかった紫色になり、蛍光もDFOより強くでます。

蛍光はニンヒドリン反応の後、亜鉛塩で見られますが、不安定で、条件に依存し液体窒素の低温にする必要があります。
しかし、5-MTNを用いると、蛍光は安定し、室温でも蛍光ははっきり見えます。
5-MTNはニンヒドリンほど非極性の溶媒には溶けませんが、DFOよりはよく溶けます。

5-MTNがエタノールとヘミケタールを作ると、5-MTNよりもよく溶けるようになります。
このヘミケタールは、紙に塗ると紙の水分により元のニンヒドリン型に素早く戻り、アミノ酸と反応します。

1,2-IND

1,2-INDは、DFOと同じく最初は薄ピンク色ですが、緑の光を当てると強い蛍光を発します。
蛍光の強さはDFOと同じぐらいですが、安価で溶解性が高いことから、実際の指紋検出現場によく登場します。

しかし、溶液を調整して数週間以上経つと、不活性な物質に変化するので注意が必要です。ただし、固体では非常に安定しています。
ニンヒドリンと同様に、塩化亜鉛で処理すると色素が安定し蛍光が強くなります。
また、液体窒素で冷却すると蛍光はさらに強くなります。
ニンヒドリンやDFOではリサイクル紙でも、指紋が検出されますが、INDでは検出が難しいという例と、検出されたという例があります。

取り扱い易い試薬ですが、検出官の判断がものを言う試薬と言えます。
感熱紙は加熱したりアセトンやエタノールなどの有機溶媒を用いると黒くなるので、ニンヒドリンやDFOでの指紋の検出は困難ですがINDは感熱紙の指紋検出が可能です。

LCV(Leuco crystal Violet) ロイコクリスタル・バイオレット

血痕指紋をより鮮明化したい時に用いられる試薬です。

過酸化水素と5-スルホサリチル酸、酢酸ナトリウムの溶液に、LCVを丁寧に攪拌し専用の噴霧器でスプレーする。
すると、血痕指紋が発光して観察できる。

ズダン・ブラック-Sudan Black

エタノールと精製水、ズダン・ブラックを攪拌させて使用する浸透試薬です。検体表面が油脂にまみれていて指紋採取がむずかしい場合に威力を発揮します。

銀行のキャッシュディスペンサーや集合ビルのドアノブなどにズダンブラックを噴霧すると濃紺色の指紋が浮かび上がります。

アメリカ西海岸で起きた映画のような「高級車連続盗難事件」
盗難車が発見されましたが、車内は清掃されていて指紋採取は難しい状況でした。この事件で、車内コンソールボックスから犯人の指紋を検出した英雄試薬です。

VMD-Vacuum Metal Deposition-真空蒸着法

最後は試薬ではなく例外的な検出方法。

検体を真空チャンバーに入れ表面に金と亜鉛の薄い被膜を蒸着させて指紋を浮かび上がられる方法。
1980年代イギリスで開発され世界に広まった方法です。

VMDのすごいところは、原子を使って現像される点です。資料が古くても上質の指紋が検出可能で、ティシュやトイレットペーパーからも指紋を検出が可能です。

有名なのは1985年に起きたブライアン・モーリス・ジョーンズ事件
資料から再指紋検出を何度も何度も続け、最後にVMDが使用され指紋検出成功させました。
そして、この事件は1992年に殺人起訴され、1994年ようやく死刑判決が出された。

アジア地区、民間法科学研究所ではオーストラリアの2台のみ
(ですから、日本から検体送り込んで、検出だけをお願いしています)
(高すぎ・・でも・・いつかは揃えたい機材です;)

指紋検出試薬の研究

全ての科学捜査は、戦略を立案し、目的を決め、指紋採取が実施されています。
そして、検出試薬の研究・開発は現在も確実に進化しています。
世界中で研究され、5年前には考えも及ばなかった物体からの指紋も検出で来るようになってきています

ここで紹介している試薬達は、ベースラインと呼ばれ、科学捜査の基本試薬達です。
試薬達は資料状況により、様々な溶剤や資材と混ぜ合わせて使用されます。
調合の方法は「職人芸」で「非公開」です。
また調合試薬により検出器具・検出方法が異なります。
・・が・・
お教え出来ません (*_ _)人ゴメンナサイ