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筆跡鑑定

近未来の筆跡鑑定

近未来の筆跡鑑定

現在主流な筆跡鑑定とは、「手書き文字」による筆者識別です。
筆者の識別とは、その文字や文章を書いた人物を特定する事を指します。

 

その筆跡鑑定の技法は、今や80%以上がコンピュータで処理される数値解析(コンピュータ・サイエンス)の世界です。

各特徴を数値データとして抽出し、そのデータの総合成績を解析します。最後に鑑定人がそのデータを評価/判定し、鑑定書が作成されています。

裁判所で求められる鑑定書も、数値解析による物以外、採用されなくなりました。

筆跡鑑定の世界はコンピュータを手に入れ、複雑で高度な数値処理を可能にし、進化を続けています。

しかし、この筆跡鑑定は「手書き文字」のよる筆者の特定です。

現代社会に於ける筆跡鑑定

現代の人々の生活は、携帯・メール・SNSなどコンピュータやプリントされた文字が中心になりました。犯罪に用いられる書類、契約書・脅迫文・声明文も「手書き文字」による書類は、ほとんど皆無といっても過言ではなくなりました。

そこで、プリントされた文字やサイバースペース上の個人特定を目指した研究が進められるようになりました。

「手書き文字」による筆者識別が可能になるのは、その文字に、その方が日常的に使用している「クセ=個人内恒常性」が存在しているからです。文章にも、その方の「クセ=個人内恒常性」が有るのを知る方も多いと思います。

何気なく受け取ったメールが、「あぁ~彼か」 とか
携帯の2センテンス程度の文が、妻や親しい友人と分かること・・ありませんか?

これは、受け取るタイミングもありますが、文章に恒常性が存在するからなのです。

そして、この「クセ=個人内恒常性」を見つけ出す方法は

  • 「Stylometric Analysis=計量文献学」
  • 「Write Print=書字指紋」
  • 「Text Mining=テキストマイニング」
  • 「n-gram=形態素解析」
  • 「genetic algorithm=遺伝的アルゴリズム」

などの数学的/統計学的手法を用います。

そして、抽出された数値データを多変量解析することでその書かれた文章が、対象とする人物と、類似性または相違性が存在するのか判定しようと言うものです。

この研究は、欧米はもとより日本国内でも研究が行われています。

近未来の筆跡鑑定

では、筆跡鑑定の近未来は・・
2015年2月、フロリダ州オーランドにて、AAFS(アメリカ法科学会)のミーティングが開催されました。

しかし、今回はいつものメンバーと少し毛色が違う人々が多数。その多くが FBI など政府機関のサイバー犯罪を受け持つコンピュータチームの研究者たちでした。
そして、各議題別に別室で熱心な意見交換会が行われていました。

議題は、本当に多かったのですが、特に興味を持ったのが、ディープラーニングを用いた「クセ=個人内恒常性」の解析法

ディープラーニングとは、深層学習機能と呼ばれています。
もっと簡単に説明すると、AI =つまり人工知能の事です。
AI は、様々な情報を学習し、人の知能のように判定が可能なプログラムです。

法科学分野では、画像解析=顔認証で有名な研究分野ですが、研究の幅を拡大し筆跡鑑定とタッグが組めないかと議論されていました。

この研究の背景には、近年テロリストや過激派が世界に及ぼす影響が多大になっている事
そして、今後もサイバー犯罪は拡大すると考えられる事
それらの者の情報ツールとして、多言語の Web/メール/印刷物 が重要な物となっています。

このような状況から、筆跡鑑定を用いて、サイバースペースや印刷物から、制作者の解析が急務と考えられるようになりました。それらの、要請からジャンルを超えた様々な研究が行われています。

実は、こんなこと考えて、こんな研究を目指すよ、と書きたいのですが、今は、詳しく書けません、読者の方の想像にお任せいたします。
ごめんなさい

そこで、公開可能な情報を少しだけ

近年、アメリカとイギリスのニュース番組で
「今回の声明文は20○○年の物と同一人の可能性が高い」
と報道された事件がありました。

また、「過激派のPR文の作成者は、○○人である可能性が高い」と報道されたこともありました。

この事件の解析には、彼らの研究が関わっているようです。

解析方法は、AI に「これはAさん」だよと
数学的/統計学的手法で得られたデータをを渡してあげます。
すると AI は、それぞれの特徴を細かく深く学習します。

AI は、疲れを知らない記憶力バツグンのコンピュータですから、その「クセ=個人内恒常性」を持った文章を発見する事は法科学の専門家より正確な判定が可能になります。

その結果、大量の資料の一部として蓄積されたデータから
「これはAさん=31件」 「判定不能=5件」 「別の人です=6,478件」 と
瞬時に識別が出来るようになります。

そして、その記録の一部に残された、重要なキャッシュなどから、そのメール制作者・・○○州○○市に在住する○○さんに決定!と

今回の AAFS ミーティングは、これも異例な CIA の方々も目立ちました。アメリカがどれだけ本気か、推測できますよね。

法科学分野に於ける筆跡鑑定は、最も古い歴史を持つ学問の一つです。
そして、その時代、その時代の科学の最先端技術を取り込み。
様々な犯罪解明に貢献し、進化を続けて来ました。

筆跡鑑定は、理数的な発想力、創意工夫が求められる、魅力ある世界なのです。