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薬毒物分析

乱用薬物の実態〜密造から化学式まで~

乱用薬物の実態〜密造から化学式まで~

乱用薬物の実態〜密造から化学式まで~

密造の手順なども簡単ではあるが紹介しているが、もちろん密造を推奨しているわけではない。 ただ密造化学者は、あらゆるところから薬物を作成し、富を得ようとしている実態を知っていただくために、あえて紹介している。 富の裏側には、破滅している人々がいることを忘れてはいけない。乱用薬物は、違法であり、破滅への確実な一歩である。

.MDMA ・・・黒胡椒(くろこしょう)からMDMAが作成できる・・・

世界には、薬物密造に関わる優秀な化学者が大勢存在していると言われている。その中でも、化学者が最も関心を集めている乱用薬物がMDMA、通称エクスタシーだ。特に若い年齢層に人気が高く、乱用者が多い。現状は、純粋なものが入手困難で、取引価格も比較的高いドラックだ。

そのMDMAが黒胡椒から作ることができる。(もちろん過程の途中からは、非合法となる)   
何気ない日常の食卓にある調味料から麻薬、通常では考えられない工程からそれは作ることができる。その離れ業をやってのけた化学者の手法を、紹介しよう。この秘密の科学的根拠は、こうだ!   

黒胡椒からピペリン(piperine)という特有のアルカロイドが採取されるところから始まり、このピペリンがMDMAの化学構造の究極にシンプルにした形となる。そしてこのピペリンを法的に監視されていない薬品類で分子構造を変形させて、徐々にMDMAにしていくという発想だ。   

———余談だが、日本でもおなじみの七味唐辛子の麻のタネは、陶酔感をもたらす。さらにアイスクリームにも使われる“バニラ”からは、エクスタシーも作成できる。ただし、スーパーで販売しているバニラは、かなりの希釈がされているので、大量の原液からじゃないと難しい。しかし古今東西、スパイスには、隠れた密かな陶酔感に由来していたと理解して良いし、また、そう考える密造化学者は多いということだ—

.メタンフェタミン・・・漢方薬の“マオウ”から密造・・・

一般的に覚せい剤と呼ばれる薬物は、メタンフェタミンである。

諸悪の根源と称され、人々を幾多の破滅に導いたことは、周知の事実である。MDMAやMDAと違い、純粋(?)に興奮剤としての作用が現れ、身体的、精神的依存度が極めて高く、なおかつ中毒が深刻である。   

覚せい剤(メタンフェタミン)にも、多くの合成法が存在する。   

主原料のエフェドリンを確保しやすい環境(北朝鮮はエフェドリンを大量に輸入してるとされ、中国などは“マオウ” (麻黄)の産地である)にある、中国、韓国、北朝鮮、台湾などのアジア諸国の密造者たちなどでは(北朝鮮は国家ぐるみと聞く)、このエフェドリンを、直接化学変化させてメタンフェタミンを密造しているようである。   

このメタンフェタミンの原料となる“エフェドリン”だが、あの漢方薬で使用される“マオウ” (麻黄)に、同様の成分が含まれている。マオウは漢方で“葛根湯”(カッコントウ)の主成分であるが、薬局でも販売しているあの風邪に効く【葛根湯】である。  

「証クリニック」のHP(http://www.akashi-clinic.com/kurashi/017.html)にこのように紹介されている。    「漢方薬や風邪薬でスポーツ選手がドーピング反応で陽性になるという話を聞いたことはありませんか? それは生薬“麻黄”(マオウ)の成分、“エフェドリン”の影響です。・・・葛根湯には麻黄という生薬が含まれていて、その学名をEphedrae(エフェドラ)、主要アルカロイド成分で“エフェドリン(Ephedrine)”が含有されている。

・・・エフェドリン”と“メタンフェタミン”…図は日本薬局方データベースから転載したものですが、いかがでしょう。とっても似ていますね。ほぼ水酸基(-OH基)一つの違いだけと言ってよいでしょう。   

このように、化学的に構造がとても似ていることが、スポーツ選手のドーピング偽(●)陽性問題に関わっていますが、“エフェドリン”のその生理活性にも注目すべき点があります。“エフェドリン”には、もちろん“メタンフェタミン”のように強力ではありませんが、やはり中枢神経・交感神経系に対して賦活作用があります。それゆえ、製薬会社の薬剤情報には、“麻黄”の入った処方の使用上の注意の欄には一律に、“不眠・発汗過多・動悸・精神興奮…”など交感神経系への副作用の可能性が列記されていたりします」と、紹介されており、まさしくメタンフェタミンの原料のエフェドリンを含んでいる。    

密造化学者はここに着目し、密造を図るのだ。

3.コカイン

覚せい剤と並び、興奮状態を創出する乱用薬物の代表格は、“コカイン”である。これは、コカの葉に含まれるアルカロイドであり、コカの葉を直接化学処理してコカインを製造する。

コカの樹木は南米に集中(栽培も含めて)しており、その中でもボリビア、ペルー、コロンビアが、産地の中心となっている。ボリビアとペルーでは、栽培が合法と非合法が混在していると言われているが、コロンビアのそれはほとんどが非合法である。

有名な話だが、あの薬物密造販売の世界的組織、メディシン・カルテルの本拠地でもある。ここで密造されたコカインは、ほとんどが北米に闇輸出されている。しかし近年、アメリカの9.11テロ後「米国愛国者法」が制定され、持ち込みが非常に厳しくなり、現在ではそのルートが北アフリカ経由でヨーロッパに持ち込まれているという。

コカインの違法取引は、莫大な富を生み出す巨大マーケットとなっており、 その密造もまた組織的かつ大掛かりなものと知られている。

4.アヘンからモルヒネ、ヘロイン

コカインと同様に、植物が原料となる薬物“アヘン”、そしてそこから得られる“モルヒネ”、“ヘロイン”。
このアヘンは、南米のコカインとは対極の地域でアジア地域(ミャンマー、タイ、ベトナム、カンボジア、中国など)が中心で、不正栽培されている。しかし近年、コロンビアやメキシコでも不正に栽培され、ヘロインに加工されて独占的にアメリカに流出されているという。

アヘン中には40種類を超えるアルカロイドが存在し、meconic酸塩であるとなっている。これらの成分で一番重要なものは、モルヒネである。ヘロインの製造過程は、3,6-ジアセチルモルヒネを作るためにモルヒネのアセチル化を伴い、この時一緒にアセチル化されたコデイン(アセチルコデイン)が、密売ヘロインに10〜45%含まれる。俗にいう不純物だ。

押収されたヘロインを分析すると、このアセチルモルヒネの成分比が生産地によって変化している事が分かっているので、アセチルコデインの含有状態は、ヘロインの生産地や製造元を把握することができる重要な鍵となっている。    ヘロインの密造は、以下の工程を経て製造される。

5.大麻/マリファナ・・合法な国もあるが、それでも違法だ!・・・

最近では、大麻は違法ではない! 戦後GHQから押し付けられた根拠のない法律だとする意見も出始めているが、現行法律では、所持が罰せられる。もちろん諸外国では、合法な国もあるが、この大麻に関しては、賛否両論があるのも事実だ。    ただし、次のような報告もある。安全性についてである。

大麻は、同じ乱用物質であっても、覚せい剤のように殺人、放火など凶悪な事件を引き起こした挙句興奮して激しく暴れ死亡するということはない、と言われている。

コカインのように、高熱を発し脳出血で死亡したり、コカイン・ベビーと言われる先天奇形児が生まれることもない。
シンナーのように、脳の萎縮から中枢神経の崩壊をきたすこともない。
アヘンやヘロインのように、虚ろな目で虚空をにらみ、喚き、暴れ、狂い、ヨダレを流し、失禁し、頭や体を床にぶつけて血を流し、のたうち回り、凄惨、過酷で正視に堪えない離脱症状を呈するわけでもない。

ところが大麻には、動物実験では検出されず、統計に表れない思わぬ有害作用があったのである。それが、大麻精神病と呼ばれる「中毒性精神病」である。大麻を使用すると精神病を発症する危険が高くなることは、疫学調査で2005年にはっきり結論が出ている(Arseneault 2004,Semple 2005,Henquet 2005)。発症のリスクが40%増加する(オッズ比1.4)(Moore 2007)と言われ、また統合失調症、動因喪失症候群から精神分裂病と、精神疾患が誘発される。

また、副作用のため医薬品として陽の目を見なかった数百種類の合成カンナビノイド(大麻を原料とする)の一部は、大麻系のデザイナードラッグや今で言う“危険ドラッグ”として乱用の対象になっている。大麻中毒者はその後、さらなる刺激を求めて覚せい剤、コカイン、ヘロインへと流れる。

6.薬物の最終章・カーフェンタニール

アヘンからモルヒネ、さらに強力なヘロインへと、より強い鎮痛作用を求めて分子構造を変化させて生み出してきた。 医療用に使用されている麻酔薬や鎮痛剤の多くは、モルヒネやコカインの構造を真似して様々な誘導体を作り、効果や持続時間を変えたものである。 そしてその効果に関しての最終章ともいうべき物質が、開発された。
“カーフェンタニール”(Carfentanil、化学名:メチル1-(β-フェネチル)-(N-プロビニル-N-フェニルアミノ)-4-ピペリジルカルボン酸エステル)である。

非常に有望な治療効果を持っており、モルヒネを科学合成して強力な効果をもたらすヘロインと比べてもさらに4,000倍もの効力を持つとされる。 この薬物の4,000倍という値は、何を意味するのかというと、ヘロイン1回の摂取量の1/4,000で同一の鎮痛効果を実現できるということである。

つまり、密造化学者の頭には、「このカーフェンタニールを1Kg製造することは、ヘロイン4tを製造することに匹敵する」と考える。 ヘロインは、アヘンから精製したモルヒネを、無水酢酸を使用しアセチル化という科学変化を起こさせて、より強力なモノへと変化させた薬物である。が、しかしカーフェンタニールは、これら薬物が持っている特徴をそのままにして、分子構造を計算し尽くしたデザイナードラッグで誕生した薬物である。
DEA(アメリカ連邦麻薬取締局)による[FUTURE SYNTHETHIC DRUG OF ABUSE]により、詳細が報告されている。密造化学者は、そのパテントに合成法の概要が記載され公開されているので、どのようになったかは想像できるだろう。もちろん合成法の概要から、詳細を割り出したのである。ちなみに合成例は、アメリカの特許情報(US Pat.5,106,983)として、公開されている。

出典・参考資料

■新裁判化学/裁判化学:南山堂、■薬毒物化学試験法:南山堂、■法科学技術学会誌:法科学技術学会、■乱用薬物密造の科学:データハウス・薬師寺美津秀 著、■覚せい剤Q&A:東京法令出版・井上堯子/他 著、■これが麻薬だ:立風書房・剣持加津夫 著、■薬物乱用・中毒百科:丸善出版・内藤裕史 著