人血の証明
最新の科学捜査の現場とは言え、血痕だと思った斑痕がそうでなかったり、汚れだと思った斑痕が血痕だったり、予測に反する事も少なくありません。
血痕であることが証明されたとしても飲食店の関係者であれば、人血以外の血痕が付着していることはありえる事です。
また、車両には小動物や虫などの血痕が付着している事もあります。
ですから、血痕と判定されると、迅速に人血か否かを決定しなくてはなりません。

人血検査(血液が人に由来するものなのか否か)
血痕試験が陽性になっても、その血痕がヒトのものか否か検査をする必要があります。
じつは、動物や植物には人間のABO式血液型と類似する血液物質を持っている種も多くいます。
A型 | B型 | AB型 | O型 |
---|---|---|---|
アマガエル |
ウシ |
オランウータン |
シジミ |
アオキ |
イヌツゲ |
バラ |
ツバキ |
※イヌは専用の血液型判定方法を使用しますが、ヒト凝集試験でA型に判定が出てしまいます
ある民事案件で、人血痕であると判定された検体が当社に持ち込まれました。ABO式検査を実施したところ血液型は「A型」と判定されました。
ところが血痕の色調が異常で、気になったため報告をいったん見送り人血試験を実施その結果、人血の反応は陰性でした。
そこで斑痕全体を生理食塩水に浸しオーバーナイトの処理を行い、次の朝 確認すると、
魚の骨の一部分と推測できる物質が観察されました。
その後、DNAでの判定を行い、ヒト由来血痕ではない、と結論付けました。
ヒト以外の血痕でも、ヒトABO式検査を行うと、誤判定する可能性もあります。
さらに、適切でない検査を行い、検体汚染による誤判定の可能性もあります。
その斑痕、本当に人血ですか?
お昼やおやつの○○○じゃ?
簡易的な血痕試験結果だけでは動物や植物の斑痕と見間違える場合もあります。
人血検査(血清学的検査)
ヒトを含む脊椎動物やその他の動物にはヘモグロビンが存在します。
ですから、ヘモグロビンが検出されてもヒトのものか別のものか判定できません。
人血の証明は、ヒトのヘモグロビンと反応する抗ヒトヘモグロビン沈酵素と、ヒト血清中のタンパクと反応する抗ヒト血清タンパク沈酵素を用いて検査が行われます。
ⅰ)沈降反応重層法
ⅱ)沈降反応拡散法
ⅲ)顕微沈降反応
ⅳ)沈降電気泳動法
Ⅴ)免疫クロマト法
Ⅵ)ラテックス凝集反応
なぜこの様に多様な試験方法が存在するのでしょうか?
実は、血痕とは大変デリケートで汚染されやすいものなのです。細菌などにより、汚染された血痕では抗ヒト(Hb)血清で証明されないこともあります。
検査試料である血痕検体は、複雑な事象が重なり合って存在しています。ですから、試験試料を多方向から観察・検討・試験を行い人血痕を証明していくのです。
出血部位の推定
犯罪などでの出血は外傷性出血がほとんどです。
しかし出所がわからない血痕が発見された場合、その血痕が病的理由によるものなのか、または犯罪に関与していないかを明らかにする必要があります。
血痕から、その出血部位を推定するには、血痕の生理食塩水による浸透液から得た沈渣物をそのまま、もしくは、予想される細胞に適した染色を実施し、顕微鏡検査を行います。

出血部位検査の種類
1)喀血 2)吐血 3)下血 4)鼻血 5)月経血 6)分娩血 7)胎児血 8)生体血
出血量の検査
内出血の場合は、解剖時に体腔内に蓄えられている血液量を計測します。
外出血の場合、遺体発見現場、着衣などに付着した血痕から、遺体の移動や犯行現場の推定のため、その出血量を計算することがあります。
また、受傷が生前のものか、死後のものか加害場所が、遺体発見場所と一致するか、現場で認められた血痕量が複数人の可能性があるのか。
これらの疑問が生じた場合、血液量の計測が行われます。