血痕からの個人識別
法科学鑑定研究所における血痕からの個人識別は、DNA鑑定や血液型遺伝子検査などの手法を用いて、現場で採取された血痕から、被疑者/関係者などの身元を特定することを指します。
血痕からの個人識別は、捜査において重要な証拠となります。現場に残された血痕からは、DNAが取得できるため、DNA鑑定や血液型遺伝子検査によって、血痕の身元を特定することができます。
DNA鑑定では、DNAサンプルを採取し、DNAプロファイルを作成して比較することにより、現場に残された血痕と犯人のDNAが一致するかどうかを調べることができます。また、血液型遺伝子検査では、ABO式血液型遺伝子のアレル分類やRh式血液型遺伝子の型判定などを行い、血液型から犯人の身元を特定することができます。
血痕からの性別検査
血痕からの性別検査は、現場で採取された血痕から、その血液サンプルが男性のものか女性のものかを判定することができます。この検査は、リアルタイムPCRシステムとヒト・トータル・プラーマーとY染色体プライマーを用いた検査が行われます。
この検査では、DNAの性染色体であるX染色体とY染色体の遺伝子を検査します。女性の場合、X染色体を2つ持っているため、X染色体の遺伝子が検出されます。男性の場合、X染色体とY染色体を持っているため、X染色体の遺伝子とY染色体の遺伝子の両方が検出されます。つまり、男性の血液サンプルでは、Y染色体の遺伝子が検出されるため、男性であることが確認されます。
このように、血痕からの性別検査は、現場で採取された血痕が男性のものか女性のものかを判定するための手法です。これにより、血痕の性別を特定することができます。
<リアルタイムPCRの試験結果>
左が紙幣に付着した赤褐色付着物の検出例、ヒト及びY染色体ともに増幅しているので男性の斑痕と推定された。
血痕からのABO式血液型検査-凝集検査
凝集検査では、まず、検体として採取された血痕から赤血球を分離し、血漿を除去します。次に、検体に、A型、B型、O型の抗血清を加えます。これにより、血痕中の赤血球が抗血清に反応して凝集するかどうかを確認します。
例えば、A型の血液サンプルにA型の抗血清を加えた場合、A型の抗原が赤血球の表面に存在するため、抗血清と反応して凝集します。同様に、B型の血液サンプルにB型の抗血清を加えると凝集し、O型の血液サンプルには、A型とB型の抗血清を加えても凝集しないという特徴があります。
このようにして、凝集検査によって、血痕からのABO式血液型を判定することができます。
血痕からのABO式血液型検査-SNP検査
近年、血液型判定法の中で、ジェノタイピング法によるABO式血液型の判定が広く用いられています。
ジェノタイピングとは、遺伝子型を直接解析する方法であり、血液型の遺伝子情報を解析することで、ABO式血液型を判定する方法です。この方法では、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)やDNAシーケンシング技術などを用いて、血液型遺伝子を解析します。
血痕からAA型を判定した解析画面
ジェノタイピング法によるABO式血液型の判定は、凝集検査などの従来の方法に比べて、より高い精度で、また、血液型遺伝子の多様性にも対応できます。そのため、移植や献血の分野で広く利用されています。
また、ジェノタイピング法は、ABO式血液型だけでなく、Rh式血液型やHLA(ヒト白血球抗原)型など、他の血液型に関する情報も得ることができます。そのため、将来的には、より詳細な血液型情報を基に、移植や献血などの医療に役立つ情報を得ることが期待されています。
血痕からのDNA型検査
血痕からのDNA型検査は、犯罪現場などから採取された血痕のDNA情報を解析することで、犯人の身元を特定するための検査方法です。
血痕からのDNA型検査は、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)などの技術を用いて、微量なDNAからも遺伝子情報を取り出し、DNAプロファイルを作成します。このDNAプロファイルは、DNAに含まれる特定の遺伝子座の塩基配列のパターンを示すもので、人によって異なるため、個人を特定することができます。
尚、DNA型鑑定の詳細は「DNA鑑定」をご参照下さい。