軽井沢スキーバス転落事故-運転者技量への違和感

運転者技量への違和感

この度の長野県軽井沢町スキーバス転落事故によって亡くなられた方々、
ご遺族、関係者の皆様に、衷心よりお悔やみ申し上げます。

また、負傷をされた方々には、一刻も早い回復をお祈りいたします。

今回の事故で、バス運転手の技量にまつわる報道が世間を賑わした。
また、碓氷峠を利用したのは運転手の習熟訓練を兼ねていたとの報道もある。
先のページでも述べたとおり、当事者等は既に死亡し、真相は誰にも分からない。
単なる憶測は、誤った先入観が惹起されかねないものだ。
しかし、事故原因が運転手の技量を疑うに報道に傾注された。
これは関係各機関の動きに由来する。
 
この件では、事故当日の10時に管官房長官会見が会見した。
事故現場には事故当日、国交副大臣、翌日には国交大臣が訪れている。
これに付随し、地元選出の国会議員や県会議員も視察したことであろう。
国交省は「特別重要調査対象事故」に指定し自動車事故調査委員などを派遣している。
長野県警は現地の交通整理・要人の警備などに追われながらの捜査となった筈だ。
結果として警察の発表が後手に回ったことになる。
 
警察の捜査は証拠物を確保し保全するといった根気のいる作業である。
他方、国交省は定められた様式に定められたように規定が遵守されているかの調査だ。
特に本件事業者は相当に杜撰な管理であったため、調査に要する時間はさほどかからない。
国交省の事業者にまつわる記者発表が先行したため、マスコミはこれに飛びついた。
 
国交省の記者発表を受け、件の運営会社にはマスコミが殺到した。
死亡した運転者が不慣れであった情報は、その時点で運営会社しか知り得ないことである。
取材攻勢の中で、運営会社は苦し紛れに運転手の技量についてコメントしたのであろう。
穿った見方をすれば、運転手一人に責任を転嫁する狙いがあったのかもしれない。
いずれにせよ、バスの運営会社からの情報で運転者の技量にまつわる報道が始まった。
「碓氷峠を利用したのは運転手の習熟訓練をかねていた」
という憶測情報までもが配信されるに至っている。
 
確かに、運営会社のみならず、関係者に於いては運転手を悪者にするのは都合がいい。
整備を請け負った工場を始めバスにまつわる関係各位にしてもそうであろう。
つまり、運転手以外、全ての関係者暗黙の総意が覗える。
運転技量が未熟だったとしても運転手に運行を任せたのは運営会社だ。
未熟な運転にてフェード現象などが惹起されていたとしても、その責は運営会社に帰する。
 
ところで、死亡した学生等のテレビ報道では
哀しげなBGMが流れつつ、沈痛なアナウンスがなされた。
しかし一方で、2名の乗務員については申し訳程度である。
それどころか、死人にむち打つかの如き伝聞の憶測情報までもが配信された。
本気で弔うコメントは聞こえてこない。
これには理由がある。
1998年10月に死亡した運転手と同姓同名者が窃盗未遂で逮捕されている。
逮捕された容疑者は逮捕時47歳だ。
今回死亡した運転手は当時、報道の約3週間前に48歳を迎えており、別人と思料される。
また、逮捕時の職業も本人と異なる。
しかし、この容疑者が運転手ではないと強く推認されるが、別人との断定はできない。
同一人物かもしれないという疑念が、弔う報道を躊躇させているのであろう。
また、叩いても文句を言う遺族が出てきてないという点も大きい。
 
さて、今回の事故では、15名が死亡したが、実はこの数字は少ないと見る。
転落地点より200m前の橋梁上で路外に逸脱していれば、全員死亡でもおかしくない。
国交省の監視カメラを見ていると、意に反してバスが加速していることが覗える。
運転手は、絶望の中にありながら、最後まで希望を捨てずこのカーブを乗り切った。
一番怖かったのは運転手であったことは言うまでもない。
彼はこの恐怖と戦いながら乗客半数以上の命を救ったことになる。
17年前の前科の疑いなど些末な問題だ。
今は、ただただ、運転手が安らかに眠れるよう弔いたい。
合 掌

2016/01/20
法科学鑑定研究所
嘱託鑑定人:石橋