DNA鑑定の始まり

「finding pitchfork in the haystack」

「干し草の中から1本の針を探す」
などと翻訳され、映画・ドラマ・小説など様々な場面に登場するフレーズです

「finding pitchfork in the haystack」=直訳すると「干し草の中にピッチフォークを探す」

翻訳家泣かせのフレーズです
(映画の字幕やTVドラマなどの訳は、ほとんどが間違えています)

ピッチフォークとは木製の長い柄の先に鉄製の3本から5本の針を持つ農具のこと
干し草を持ち上げたり、投げたりすることに使用されます

・・・で、これが何故、科学捜査ドラマや、刑事物の小説に頻繁に登場すのかと言えば・・・

こんな事件があったのです

DNA鑑定が最初に使用された殺人事件

イギリスのほぼ真ん中に位置するレスターシャー州。
ロンドンから特急列車で約2時間掛かります。

広大な牧場と大型大学、大型病院があり、
草原・森林などが広がる渋滞など無縁の静かな州です。

ウイリアムはレスターシャー郊外ナーバラの病院で事務員として働いていた。

1983年11月のある朝、ウイリアムは、いつもの急ぎ足で勤務先の病院に向かっていた。
ウイリアムは通勤途中の道ばたに、何かの塊を発見した。

「近寄ってみると女性が倒れているのだと解りました 」
(・・死んでいるのかも・・)

ウイリアムは、勤務先の病院に向かって、もの凄い速度で走り出した。

病院から通報をうけたナーバラ警察は、すぐに現場に到着しました。

現場では、女性の死亡が確認されました。

検視捜査官が検案を開始、女性の死因は強姦殺人と認知されました。
死亡推定時刻は、発見前夜未明と推定されました。

女性の身元はすぐに解りました。
被害者は近くに住む15才の少女。
名前はリンダ、近くの高校に通う、ごく普通の少女。

事件の前夜は友人宅に立ち寄り帰宅する予定でしたが、
帰らない娘に不安を感じた両親が友人宅に連絡を取ると、
既に帰宅した事を知り、ますます不安を募るばかりでした。

この静かな街ナーバラには、イギリスでも有名な精神病院があります。

人の世は何処でも精神患者に対していくらかの偏見を抱いており、
この精神病院のそばで起った強姦殺人事件も同様に精神患者の仕業と憶測されました。

そんな風評が広まるなか病院はメディアに対して
「患者の夜間外出は絶対に!あり得ません!」とコメントを出した。

ナーバラ警察では、容疑者特定のため、
あらゆる施策を講じ被害者の膣内に残る加害者の精子を
イギリス内務省法科学研究所に送り届けました。

当時の科学捜査技術は、血液型に頼るものであり、
この事件も同様に血液型を中心に解析が行われました。

リンダはA型、加害者はB型との報告書をナーバラ警察に届けられました。

この報告だけでは容疑者に辿り着ける筈もなく、
懸命な捜査が行われましたが有力な情報を得ないまま3年の月日が流れてしまいました。

そして、このリンダ強姦殺人事件は人々の記憶から徐々に忘れられて行きました。

リンダ強姦殺人事件から3年後、1986年8月の早朝。

あの事件現場から程なくした場所の道ばたから、女性の死体が発見されました。

通報をうけたナーバラ警察は直ぐに現場に到着。

検視捜査官は3年前に起きた、リンダの強姦殺人事件と
何から何まで、そっくりな死体を検案することになりました。

被害者は、近くに住む15才の少女、名前はドーン。

前回同様、イギリス内務省法科学研究所に送り届けられた物を検査し比較すると、
加害者は同一人物であることが判明し、連続少女強姦殺人事件として認知されました。

ナーバラ警察では懸命な捜査の結果、数人の目撃証人を得ることが出来ました。

ドーンの遺体発見現場から近い場所で、犯行予測時間帯、
赤いヘルメットと赤いバイクが遊走しているのを数人の住民により目撃されていました。

その持ち主は、犯行現場近くの病院に勤める食堂従業員17才のジョージ。

ジョージは、友人に自分が犯人であるが如く自慢話をし、
事件犯行をほのめかす内容を、饒舌に語っていた

そして捜査官は、8月29日の早朝・・ジョージを重要容疑者として逮捕した。

しかし、ジョージは3年前14才、はたして犯行を及ばせる事が出来たのであろうか?
捜査官は思いを籠もらせていた。
しかし、他に容疑者らしき人物の影は無く、血液型も一致する
どうしても決定的な証拠を得たいと、捜査官は考えていた

ドーンの強姦殺人事件の前の年
、 レスター大学の遺伝子学者ジェフリーズがDNA指紋法を論文で発表していた。

奇しくも同じエリアで連続少女強姦殺人事件が発生していた。

ナーバラ警察はこのジェフリーズにDNA鑑定を依頼したのである。
ジェフリーズは早速、ジョージの血液サンプルを要求し、
リンダ、ドーンの膣から採取された精子との鑑定に取りかかった。

結果は「シロ」、ジョージは真犯人では無かった。
このDNA鑑定結果をナーバラ警察に届けると、期待を裏切られた捜査官は
ジェフリーズをなじり、DNA鑑定なんてデタラメだと否定した。

ジェフリーズは解決案を模索していた。

そして、一つの方法を思い付いた。
「手の指紋と同様に、付近の住民から血液を集めて
DNAデータの比較してみては、どうだろうか・・・」
と、考えた。

そこでジェフリーズは、直接レスター市長へ進言してみることにした。

レスター市長はジェフリーズの提案にまったく応じる気配すらなく、
地域住民からの血液サンプル採取は許可しなかった。

道を閉ざされたジェフリーズは近隣住民を説得する策に、方策を変更し、
毎日夜住民宅を訪問し説得を行った。

そうしたジェフリーズの行動は地域住民の心を動かした。

地域住民たちが市長に対して、凶悪犯罪者が捕まらないと安全な生活が送れない。と・・

そして、ついにレスター市長は地域住民からの血液サンプル採取を許可したのである。

1987年1月、ナーバラに住む17才から35才までの男性から血液の採取が始まった。

6ヶ月間で、地域住民、約4,500人分の血液サンプルがジェフリーズのもとへ寄せられた。
ジェフリーズはまず、血液型を精査し加害者と違う血液型の者を排除した。
これにより60%の人々を排除できた。

残りの人々のDNAを抽出、慎重かつ丁寧に照合検査が行われた。
しかし、どうしても地域住民のDNAと、加害者のDNAとが一致しない。

・・・時間だけが冷静に過ぎて行く・・・

業を煮やした地元警察官は、ジェフリーズを激しく罵った。
「DNA鑑定なんて犯罪捜査の役立つもんか・・・学者の戯言だ!」

・・・時間が経つにつれ、ジェフリーズへの対応は醜くなっていった・・・

詐欺師、大嘘師、科学者のくせに出しゃばるな、などの誹謗中傷が相次でいった。

ジェフリーズは地域住民・政治家・警察などの人々から徐々に孤立状態に陥っていった。

ジェフリーズの手記に、こんな記述があります。

「私は寝る間も惜しんでDNAの比較を続けている。」

「あれから何ヶ月経ったのだろう。 」

「一向に目当てのDNAは出てこない。」

「私の研究室の前でFuck You!!と怒鳴る声が聞こえる。」

「私に向けての声なのだろうか」

・・・事件後、数ヶ月が過ぎたころ・・・

ナーバラのパブで友人の血液提供を話題に飲んでいる若者がいる。
近くのパン工場で働くケリーである。
ケリーは同僚のピッチフォークから執拗に血液提供の身代わりを頼まれていた。
その代償は金銭であった。
ケリーはナーバラには住居していない。
その ために、ケリーは血液提供の義務は無いのである。
ピッチフォークは過去に数回、女性に変態行為をし警察の取り調べを受けている。
したがって、容疑を疑われる可能性が極めて高いのである。
だから、ピッチフォークは身代わりの為に金銭を用意したのである。
ケリーは、その金銭目的のために身代わりを引き受けた。

この儲け話を自慢げに吹聴していたのである。

この話をパブで同席し聞いていた者が、ケリーの働くパン工場長に、この内容を話した。

翌日、パン工場長はこの事情を相談しにナーバラ警察署へ訪れた。
ナーバラ警察は即座に行動を起こし、ピッチフォークに事情聴取を行った。

そしてピッチフォークの採血が行われ、ジェフリーズのもとに届けられた。

ジェフリーズは直ぐにDNA鑑定を開始した。

・・・DNA鑑定の結果・・・
リンダとドーンの膣内に残されたDNAと、ピッチフォークのDNAが「一致」した。

ジェフリーズは、鑑定結果を何度も何度も確認し「間違いない、ピッチフォークのものだ!」

そして、ジェフリーズは天を仰ぎ涙した。

1989年10月、ピッチフォークは連続少女強姦殺人容疑で逮捕された。

裁判の結果、ピッチフォークは両方の事件に関して有罪の判決を受け、
仮釈放無しの終身刑と宣告された。

そして、ジョージには、偽証罪が宣告された。

ジェフリーズにとって、ほんとうに長い戦いが終了した時だった。

この事件は、世界に於ける証拠物件DNA鑑定の先駆けとなった。
そして、ピッチフォークの名前はDNA鑑定の世界に名前をとどめることとなる。

「finding pitchfork in the haystack」=「干し草の中にピッチフォークを探す」

・・・このフレーズの本来の意味は・・・

『有力な証拠は必ず存在する。多方向/様々な思考方向で分析せよ』
(たくさんの資料の中から、ガンバッテ証拠を探せ!ではありません^^)

科学捜査のキャッチフレーズとして
映画、科学捜査ドラマ、刑事物の小説などに頻繁に登場し
目耳にするフレーズとなったのでした。